6期・33冊目 『陪審法廷』

陪審法廷

陪審法廷

内容(「BOOK」データベースより)
2004年、アメリカ・フロリダ州。養父にレイプされ続けた少女を救うため、殺人を犯した日本人少年。罪状は第一級殺人。繰り広げられる、検察と弁護人の「正義なきディベート」。減刑なしの終身刑か、完全無罪か?少年の未来を決めるのは、12人の「普通のアメリカ人」―主婦、トラックドライバー、教師―市民が市民を裁くとは、どういうことなのか。

事件に至るまでの前提として、グァテマラのスラムから運よく脱出してアメリカの裕福な夫妻に養子として迎えられたパメラ。父の仕事の関係でフロリダに住む日本人少年・研一。両家は家族ぐるみの付き合いで、中学最後の学年を迎える二人は密かな恋心を育んでいました。
しかし3年もの間養父に性的暴行を受けていたというパメラの告白を受けた研一が義憤に駆られて養父を射殺してしまう。
15歳と言えど、少年法がある日本と違いアメリカでは重大事件は通常の裁判が行われて、12名の陪審員が召集されることになるのです。


検察と弁護人による緊張感溢れるディベートはありますが、全体的に淡々と進み、ハラハラ感やドンデン返しといったものはほど遠いです。
むしろ法の専門家ではない一般市民が犯罪者を裁くというテーマが重くのしかかる。
なぜなら有罪とされれば仮釈放なしの終身刑(第一級殺人)もしくは25年以上の有期刑(第二級殺人)、それとも無罪とするか、のどちらかしか選べません。
そこで検察・弁護双方から出された証人や証拠を巡って、陪審員たちが喧々諤々の議論を重ねる。それこそが作品の重要な部分であり、人を裁くとはどういうことかを読む者に強く訴えるのです。もちろん、真面目に取り組むわけでもなくそんな面倒なことは早く済ませたいという人物もいれば、15歳という将来ある被告の立場を思い決断が下せなかったり、12人もいれば立場もさまざまです。


いざその立場になってみないと実感がわからないものですが、アメリカでは陪審員制度として定着しており、日本でも詳細は違えど最近になって実施されています。
時期的に日本の裁判員制度導入が契機になっているのは確かですが、ところどころ法制度や社会文化の違いについて日米の比較がされているのも特徴なので、単純にその是非を出せるようなものではありません。ただ、陪審員に選ばれたある女性を通して素人が司法に関わる難しさが充分伝わってきますね。
少なくとも今回のケースに限っては、一般の人々が当事者の立場になって考え、議論尽くされた結果が被告に伝わったという意味で物語は妥当な結末として締めくくられました。