5期・18冊目 『最後の忠臣蔵』

最後の忠臣蔵 (角川文庫)

最後の忠臣蔵 (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
吉良邸討入から引揚げる途次、足軽寺坂吉右衛門大石内蔵助に、生き延びて戦さの生き証人となるよう命じられた。義に殉じる事も出来ず、世間の視線に耐えて生きる吉右衛門は、十六年の後、討入前夜に脱盟した瀬尾孫左衛門と再会する。同じ境遇にある旧友にも、実は内蔵助から密かに託された後事があった。苛酷な半生を選んだ二人の武士の信義と哀歓を描いた表題作など、連作四篇を収録。

武士の一分を立てるために同志を募り、策を練り、計画をたて、いざ討ち入って吉良上野介の首級を挙げて本懐を遂げれば終わり、ではないところが池宮版忠臣蔵
四十七人の刺客』においても、討ち入りに参加しなかった浪士たちの仕官や暮らしの面倒まで心配っていた様子が描かれていて、大石内蔵助の懐の深さを感じました。
それに加えて、本作では関係者への報告や残された遺族のことを大石より直々に託されたのが主人公・寺坂吉右衛門となります。この場合、生き延びることは同志とともに殉じるよりも辛い運命が待っています。彼の存在を疎む者*1らから追われて心休まる場所もなく、何度もくじけそうになるところを救うのがかつて大石によって救われた人々だったりするわけで、そういうった大石の遺風に触れて吉右衛門の人生が啓けていくさまに展開の巧さを感じますね。


大石の遺命を受けた人物と言えばもう一人、大石家の用人・瀬尾孫左衛門。
最終章にて彼が謎の行動を取る人物として出てきます。
別々の使命を受けてきたこの二人が出会い、大石の忘れ形見の身の振りを決めたところで物語のクライマックスシーンを迎えます。
その闇夜の嫁入りにおいて、集った元・赤穂浪士によって徐々に火が灯されるシーンは『四十七人の刺客』から読み続けた読者にとっては感無量。
そういえば各エピソードではそれぞれ木花が象徴として記憶に残るわけで、シナリオライターとしての経験を生かした視覚的に印象を残す工夫が感じられますね。
そして寺坂吉右衛門にしても瀬尾孫左衛門にしても、忠臣蔵のメインテーマたる吉良邸討ち入りに関しては完全な脇役でありましたが、生き延びた二人については謎が残るだけに、その後の顛末を幕閣の政変まで巻き込む壮大な仕掛けまで交え、読みごたえのあるストーリーとなりました。個人的には『四十七人の刺客』から続けて読んだのが良かったですね。

*1:公儀を憚る親戚筋など