- 作者: 牧野修
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2004/09
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 2回
- この商品を含むブログ (18件) を見る
内容(「BOOK」データベースより)
娘を惨殺され、失意の底に沈むエッセイスト草薙のもとに、かつての担当編集者から連絡が入る。小説を書かないか―。娘の供養にと書き始めた小説『屍の王』。しかし、かつて同名の作品が存在し、その著者が娘と妻を殺害し自殺していた事実が明らかになる。自らの過去を探す道程で明かされる恐怖とは…。
いきなりネタバレすれば『古事記』の中の死んだイザナミを追って黄泉の国に入ったイザナギの話をモチーフにしたホラー作品です。
主人公の草薙、それにかつて同名の『屍の王』という小説を書いた伊佐名鬼という小説家はイザナギから来ているし、殺された草薙の娘・奈美子はイザナミから取られている他、あらゆるところに黄泉の国に関するものが散りばめられています。といってもほとんどは解説読んで気づいたのですが。*1
小説の進行とともに奇妙な電話がかかってくるわ、行く先々で首吊り死体の女が登場するわで、夢(幻想?)と現実が混同していく主人公。そして自分が何者なのかわからなくなってゆく不安。そのへんの追い込まれていく心理描写は巧いなと思います。
著者は狂気に囚われた人間を描く第一人者だけあって、世界観が壊れていく様をまざまざと見せつけ、どういう結末が待っているのか非常に気になってしまうのです。ただしグロくて気持ち悪い部分も多分に含まれているのでマニア向けでしょうけどね。
本編の中では奈美子の登場シーンだけが唯一心休まる場面だけに、冒頭での愛娘を失った悲しみは際立っているし、終盤で草薙が約束を守れずに見てしまったモノは一層おぞましい。
そして、お約束の亡者たちに追われて草薙が逃げ出す場面にて全てが明かされるのだけど、なんとか逃げ出すことのできた古事記のイザナギと違って、こちらでは生者に対する死者の妄執を感じさせる結末となっていますね。