3期・52冊目 『ぼっけえ、きょうてえ』

ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)

ぼっけえ、きょうてえ (角川ホラー文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
―教えたら旦那さんほんまに寝られんようになる。…この先ずっとな。時は明治。岡山の遊郭で醜い女郎が寝つかれぬ客にぽつり、ぽつりと語り始めた身の上話。残酷で孤独な彼女の人生には、ある秘密が隠されていた…。岡山地方の方言で「とても、怖い」という意の表題作ほか三篇。文学界に新境地を切り拓き、日本ホラー小説大賞山本周五郎賞を受賞した怪奇文学の新古典。

ぼっけえ、きょうてえ」とは岡山地方の方言で、「とても怖い」の意。
何が怖いって、

  • ぼっけえ、きょうてえ」の女郎の身の上話に出てきた間引き産婆の話が怖い。*1そして双子の姉さんが怖い。聞き役の客はその後いったい・・・。
  • 「密告函」に出てくるよくできた嫁が実は怖い。夫の身から出た錆*2ではあるものの、普段大人しい人ほど怒らせると怖いという典型。
  • 「あまぞわい」のぱんぱんに膨れ上がった水死体を想像するだけでも恐ろしいが、更にそれが主人公の足をひっぱったり背にもたれてくるなんて寒気がする。
  • 「依って件の如し」の人の良さそうな老夫婦が実は怖い。恨みというものの根深さを感じる。


この作品で主に語られるのは人の恨みであり、それが見えるものには異形のものとしてこの世に映る怖さです。さらに閉鎖的なムラ社会の描写や、非人間的な扱いを受ける者たちの心理描写の巧みさが陰鬱な雰囲気を醸し出していてなんともいえないですね。

*1:「男は女や女の穴が好きなんじゃのうて、通じとる地獄が好きなんじゃろう。生まれる前におった地獄にな。」地獄なんて表現初めて見たけど、話を聞くと納得するようなしないような。

*2:浮気とか金使い込み