3期・24冊目 『殺人の門』

殺人の門 (角川文庫)

殺人の門 (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
「倉持修を殺そう」と思ったのはいつからだろう。悪魔の如きあの男のせいで、私の人生はいつも狂わされてきた。そして数多くの人間が不幸になった。あいつだけは生かしておいてはならない。でも、私には殺すことができないのだ。殺人者になるために、私に欠けているものはいったい何なのだろうか?人が人を殺すという行為は如何なることか。直木賞作家が描く、「憎悪」と「殺意」の一大叙事詩

世の中に個人に対する憎悪はいくらでもあるでしょうが、その中でも殺意にまで達するほど強いのはそうそうあるわけじゃないだろうし、達したとしても相対的な理由や環境的な制約などによって実際に行動として現われるのは更に限られるでしょう。そこへ辿り付くためのハードルはいくつもあり、タイミングを逸して時間が感情を風化させていくということもあるわけです。実際に感情のもつれによる殺人または殺人未遂が、近親者によるものが多いというのは、日常的に接することで負の感情が蓄積されて、なんらかのきっかけ(浮気や暴力など)で暴発するからかもしれません。長い時間かけて周到に準備された殺人計画というものは、ミステリー小説の中で見出すのが普通ですかね。


この作品の主人公・田島克幸は小学生の頃からいつも同級生の倉持修に一杯食わされて不幸な目に遭う。騙されたことに気づくのがいつも後になってからで、問い詰めても相手の倉持修の方が上手でうまくはぐらかされてしまう。
それでもって彼は口は下手で人付き合いが苦手だが、人柄が良く他人を信じやすいタイプなんですよねぇ。得てしてそういう人が目をつけられやすいのでしょう。女性関係にしろ仕事にしろ、いつもいつもささやかな幸せを掴み掛けた時期に倉持修が現われ、不幸になるきっかけを作っていく。今度こそ騙されないぞと決意しながら結局騙される様に読んでいる方はイライラします。それでも読みつづけてしまうのは、主人公に感情移入してしまうからか。


それにしても殺意を抱くほどの憎悪を抱いた相手に対して、ずるずると最後まで縁を切れずにいるのがちょっと理解できない点ではありました。倉持が言うように決定的なところでは田島が考えた上で決断しているのですから。だから倉持に対する問責の根拠が弱い。
そして田島のことをただのカモと思っているのか、それなりに友情を感じているのか、あるいはその両方か、倉持修の方もわかりづらい。最後までこちらは人物像が謎めいたままでした。


終盤どんどん落ちていく田島は結局殺人への門を超えられるのか、それまでの伏線が活きる最後の急展開は目が離せません。
ただ、とても暗い気持ちにさせられる作品だったなぁ(笑)