89冊目 『サロメの乳母の話』

サロメの乳母の話 (新潮文庫)

サロメの乳母の話 (新潮文庫)

歴史上の偉人と言えど、すぐそばにいた人の目からすれば、後世の評価はまったく違う見方であったろう。そんな視点でちょっとした遊び心もまぜて書かれた短編集。
その視点は母だったり妻だったり弟だったり、はては馬であったりと様々です。
1話ずつがとても短く、古代地中海周辺の歴史や神話を軽いノリで楽しめる作品です。
まぁ、予備知識があった方がもっと楽しめたかな、と思ったりもしました。


最後の2編はまったくの創作で、なんと地獄にて歴史上の有名な女性達が駄弁っている話。これがけっこう面白い。
地獄と言ってもまったく恐ろしい場所でなくて、むしろ一部の人間(いわゆる堅物)を除けば誰もが現世以上に楽しめるところだったりするのですが。


で、彼女らのサロンに集う条件は、世界史スケールの悪女・悪妻と言われるような、自分の思うがままに生き、それが国家あるいは外国まで巻き込んだレベルじゃないといけないとか。
ちなみに最初の話は中国史からのゲストは紅青でした。則天武后も有力候補っぽいですが。
そして次は日本史の女性から誰を招こうかという話。
しかし進行役の女王クレオパトラ以下、なかなか手厳しい。
天照大神持統天皇北条政子日野富子淀君、ことごとくお眼鏡にあわなかったようです。日本史上には世界に比肩する悪女・悪妻はいないのか、それが果たして良かったのか残念なのか・・・。
まぁ、オチがついていてニヤリとさせられますが。

90冊目 『世界悪女物語』

世界悪女物語 文春文庫

世界悪女物語 文春文庫

たぶん澁澤龍彦を初めて読んだのが10代の頃だったか、どうもあまり好みではなかったようで、その後まったく手を出すことが無かったのですが、はてなの質問で推薦していただいた縁があって読んでみました。


歴史上の悪女たちの逸話だけに、ドロドロの愛憎劇やら異常人格やら大量殺人やらで、これって凄い内容だよなと思いつつも、グロさというか気持ち悪さは全然感じないんですよね。
美輪明宏の解説にもある通り、必要以上に感情的な文章でなく、上品というか知的な文章で好感は持てます。


実はちっとも悪女っぽくないルクレチア・ボルジアやマグダ・ゲッベルスが入っているのはどうしてかというと、知名度とか作者の好みらしいです。*1
あと「悪女物語」だけに負の面が強調されている場合もありますんで、予備知識が無いととんでもない印象を抱く怖れはありますね。ちゃんと客観的に書いている人物もあることはあるのですが。


それにしても、今回も日本の女性が出てきませんでしたねぇ。何だか淋しいような。
作者いわく、肉食民族でかつ陰にこもる石造りの家にする欧州の人物の方がいざとなると過激に走りやすいとか。
確かに日本史において後世まで名を遺した美女・才女はいても、ブランヴィリエ侯爵夫人やエルゼベエト・バートリみたいな女性って見当たらなそうですな。*2

*1:前者は毒薬で有名なボルジア家出身だし、後者はナチス高官の妻ですからね

*2:ふと昔聞いた安達が原の鬼婆を思い出しましたが、こちらはあくまでも伝説っぽいですね。http://www.kanze.com/nonotayori/adachigahara.htm