10期・73冊目 『逃げろ』

逃げろ。 (メディアワークス文庫)

逃げろ。 (メディアワークス文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
地球に巨大な隕石が落ちてくる―。救いのないニュースで、人間たちはパニックに陥った。街が狂気の渦に飲み込まれる中、僕はひとまず会社へ出勤してみる。しかし、そこで待ち受けていたのは、閑散としたオフィスと、血まみれの死体だった…。明日をも知れぬ恐怖で次第に歪んでいく日常を潜りぬけ、僕は逃げる。途中で出会った殺人犯の老人や、ひきこもりの無口な少女とともに、僕は逃げる。空に光る隕石から。そして見えない運命から。

「(隕石が落ちてくるので)逃げてください」
普段は女子アナと流行の洋菓子を頬張っている印象しかない民放局の男性アナウンサーが悲痛な表情で語るという出だしからしてまず現実感ないです。*1
それでも習慣通りに出社しようとする人々、いきなり電車が止まっててタクシーを探すもまず見つからない。バス停にはいつまでたっても来ないバスを待つ人々。
早速日常から逃避し始めた人とそうでない人。まぁそのあたりはあり得るかなって気がします。
隕石落下によって壊滅的な規模の災害が起こることは予想されており、タイミングが前後することはあっても死は免れないといっていい状況らしいです。
でも詳しいことは一切書かれていない。政府や各国の対策もわからない。ただ「逃げろ」というだけ。
隕石が落ちてくる時点で破局だろうに、いったいどこへ逃げろと?
最後の方まで隕石は大掛かりなデマなんじゃないかなって疑いは捨てきれなく、背景が一切書かれてないのが不満でした。


主人公はなんとか歩いて出社、会社にいた数少ない同僚の入谷の勧めに従い、避難先のバーに行く過程で引きこもり少女のツカサや、会社の警備員でパワハラを受けていた上司を殺したカワハラさんともなぜか行動を共にします。
はっきり言って前半の主人公の行動原理が意味不明で会話も滑っている感じ。途中で読むのを辞めたくなるレベルでした。
人物の印象だけでいえば、オカマだけど男気溢れるバーのオーナーやオレンジ頭としか表現されない若者の方がよほど筋が通ってる。
静から動へと動き出した後半、車で北の方へ逃げ出した三人が不治の病を患った病人たちを収容している山荘に辿りついたあたりから多少良くなってきました。
「逃げろ」というタイトルの割に「逃げたくても逃げられない」彼らと関わったことで面白くなったのは皮肉ですけどね。
終始主人公視線で動きもその周辺に固定され、状況説明は一切なし、会話や感情表現のみというのは読みやすいのかもしれないけど飽きてしまうんですよ。
その肝心の主人公もまったく魅力なくて、精神的に20代サラリーマンというより中高生くらいでも変わらない気がするし。
最後の盛り上がりも世紀末思想に取りつかれた集団がヒャッハー!!と暴れるのが荒廃した都会じゃなくて群馬の山中に唐突に出現するという不自然。
パニック小説が好きなのであらすじに惹かれて読んでみたけど期待外れでした。

*1:いつ頃・どのあたりに・どれくらいの規模の隕石が落ちてくるのか、どれほどの被害が予想されるのか、対応策はあるのか、まずは政府からの公式発表があるだろうなぁ普通。他の人物からも話題に出ないので、たまたま主人公が聞いてなかっただけというわけではなさそう