6期・54冊目 『闇よ落ちるなかれ』

闇よ落ちるなかれ (ハヤカワ文庫SF)

闇よ落ちるなかれ (ハヤカワ文庫SF)

ローマ帝国の分裂、そしてゲルマン民族の大移動による西ローマ帝国の滅亡後のイタリア(6世紀頃)にタイムスリップしたアメリカの考古学者。やがて訪れる混乱の中世*1を回避せんと奮闘するさまを描くというのがこの作品です。
穿った見方をすれば、ローマ帝国で花開いた欧州文化が暗黒の中世時にことごとく枯れてしまい、長らくイスラム文化に後れを取ったのが悔しくて、せめて小説の中で防ごうという試みを見せているのかなぁという感じではありました。*2
それはそれとしても、主人公・マーティン(タイムスリップ後はラテン式に名をあらためてマルティヌス)・パッドウェイがなんとか通じるラテン語とおぼつかない知識を総動員しての活躍が楽しい。
一文無しからのスタートでは、この時代に無かった蒸留酒を作る事業を開始するために金貸しのところに融資の相談に行くのですが、守銭奴でもなくてもいきなり訪れた胡散臭い外国人に融資するわけなく・・・そこは簿記の基本知識を披露して見事契約にこぎつけるのですが、このあたりのやりとりが絶妙です。
この時の金貸しとはなんだかんだで最後まで友情が続くわけですが、それだけでなくいきがかり上用心棒として雇った没落貴族?のじいさんや事業の関係で出会った人々、東ゴート王国の王さまや将軍といった歴史上の人物までは実に人間味豊かに描かれているんですね。
いや実際、その未来技術が魔術と怪しまれて教会に目をつけられたり、乱暴者の王子に悪さされたりと大変な目にも遭うのですが、そのたびに機転をきかして切り抜けるところがかっこいい。
ちなみに我らが主人公パッドウェイにはお姫様や貴族令嬢とのちょっとしたロマンスもあるのですが、結果はイマイチのようで(笑)
やがてパッドウェイは身の安全も兼ねて王位争いに介入して、ちゃっかり財務官の地位につき、実質傀儡の王に代わって辣腕をふるうようになります。
戦術や装備の革新を手掛け、時には自ら剣を取ってイタリアを狙う東ローマ帝国軍や北方の蛮族やらの軍勢を獅子奮迅。
確実に歴史上の出来事を変えることには成功するのですが、個人一人の力がその後の歴史にどのように影響していくのかを考えると予想がつきません。ただ、改めてこの時代の出来事と照らして読んでみると面白いですね。

*1:このあたりの自分の知識も教科書の域を出ない程度なんだけど

*2:最後の東ローマ帝国皇帝への手紙でもイスラム勢力の勃興を警告するくだりがある

6期・55冊目 『碧海の玉座8 中部太平洋海戦』

碧海の玉座〈8〉中部太平洋海戦 (C・NOVELS)

碧海の玉座〈8〉中部太平洋海戦 (C・NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)
サイパンに増援された「飛燕」の奮戦もむなしく、グアムの米航空基地は拡充されつつあった。一方、英領トラックはエニウェトクの米軍から執拗な爆撃を受け、主力艦隊は後退を余儀なくされた。二方面で消耗戦を強いられる日米は同盟関係を修復。米軍のグアム・トラック進軍の根拠地であるエニウェトクを攻略すべく、新鋭空母「大鳳」以下空母二〇隻を擁する大艦隊を結集した。艦隊直衛に死力を尽くすシーファイア、そして新鋭機「烈風」。最強戦艦の座を賭け、「加賀」「土佐」を下したモンタナ級と「大和」「武蔵」が激突する。

グアム奪回、そして一度の海戦を挟んでより強固に基地化を済ませ、トラック(英)とサイパンテニアン(日)への圧力を強めるアメリカ。軌道に乗った工業力は戦闘の消耗などすぐ回復してしまう。この時代では随一の国力の本領発揮ですね。
日英側としても黙っているわけにはいかず、手を変え品を変え抵抗するも米軍の優勢は変わりません。このままB29の配備と本土空襲へといけば史実の敗戦パターンをなぞるだけ。
そこは史実のマリアナ海戦と違ってまだ戦力が豊富に残されていたのと、強力な同盟国の存在(もっとも前巻でグアムを巡って亀裂が入ってしまったけど)があるわけで、逆に中部太平洋の要衝・エニウェトクへの攻略をかけることで挽回していくという局面が今回描かれるのです。
にしても「中部太平洋海戦」とはベタなサブタイトルではありますが・・・。*1


まぁ米海軍の司令官がスプルーアンスから実戦経験のない無名の人物を持ち出したあたりでなにかしらポカやるだろうというのが見え見えだったりするんですが*2、米軍の「策士、策に溺れる」のおかげや日英の見事な連携プレイもあって作戦は順調に進みます。
そしてクライマックスはエニウェトク付近での戦艦同士の砲戦。
モンタナ級と大和級の迫力あるガチな叩き合いをここまで描けるのはさすが架空戦記界の大艦巨砲主義・横山信義氏の真骨頂。でもって最近の好みである小口径・速射能力によって戦艦を痛める場面もしっかりあったりして。
基本的に日本側の視点で大幅にページを割いたせいで、数が多かった英軍戦艦の戦闘シーンが見られなかったのはちょっと残念でしたが仕方ないか。
ただ、以前も見られたエンジンを火星に変えただけでシルエットはほとんど変わらない(そんなわけなかろう)烈風や、昭和19年まで機種改変せずに改良で引っ張る九七式艦攻*3など、首をかしげる箇所がいくつか見られました。


それにしても、戦力回復までのおよそ4か月をドイツからの戦艦・巡戦で凌ぐということは、大小二つくらいの山場があって10巻あたりで終幕ということでしょうか。
やっぱりソ連戦線に絡んでイギリスの外交戦術が決め手になるのかなぁ。

*1:檜山良昭で同名の架空戦記があったなぁ

*2:登場人物で先が予想できてしまうのは著者の特徴

*3:天河という双発機を出したせいで、天山に回すリソースが無くなった?