13期・50冊目 『女の城』

おんなの城

おんなの城

内容紹介

結婚が政略であり、嫁入りが人質と同じだった戦国時代。
各々の方法で城を守ろうとした女たちがいた――
2017年のNHK大河ドラマに決定した女城主、井伊直虎ほか、三人の女の運命を描いた中篇集。

戦国時代、城主である夫や父が急死したことにより、やむなく女性が臨時に城主となることはしばしばありました。
中には嫡子が幼く、正式に一族を率いていた女性もいたようです。
大河ドラマの主役となった井伊直虎を始め、今川氏を支えた寿桂尼*1が有名ですね。
そんな女城主を三人取り上げた作品になります。


「霧の城」
織田信長の美濃制覇の一環として、東美濃一帯に勢力を誇っていた岩村城主遠山景任に嫁いだのは信長の二つ上の叔母・珠子(おつやの方)。
しかし、武田氏との戦いによって夫が死亡。
珠子は養子として送り込まれた信長五男の坊丸を後見し、女ながら城代として役目を果たそうとします。
しかし、武田信玄が本格的に織田と戦端を開くと、秋山信友率いる軍勢に攻められてしまい、落城目前となったところで、信友から和議と共に意外な申し出を受けるのでした。
前に岩井三四二による同名の『霧の城』で読んだのと似たような内容でした。
敵同士であり、かたや織田の一族として女城主の珠子、かたや武田二十四将に数えられる歴戦の将。
そんな二人が和睦のためとはいえ婚姻を結び、次第に遅咲きの恋を実らせる(先に惚れたのは秋山信友の方)というのが意外性のあるドラマであったと言えましょう。
ただし、その関係は長くは続かなかったわけですが、この二人だけでなく織田と武田とによる数年がかりの戦争の狭間にはこうした悲劇が多くあったのでしょうね。


「満月の城」
室町幕府管領職に就く名門・畠山氏の分家として能登守護大名能登畠山氏の居城であった七尾城の名は堅城として知られています。
応仁の乱で分裂・弱体化してしまった畿内の本家と違い、戦国時代に入っても能登を支配していた畠山氏ですが、実際は重臣である七人衆による暗闘が繰り広げられていたり、二度も上杉軍が押し寄せてきて長きに渡る籠城戦があったりしました。
そんな中、遊佐・長ら重臣の反乱によって当主・義綱が追放され、幼い嫡子・義慶を傀儡としました。
そんな中で残された側室の佐代と息子の義隆は義慶を支えるべく奮闘するのですが、敗勢が強まり籠城中に場内が不穏な雰囲気となる中、重臣筆頭の遊佐続光と佐代を結ばせようという策が生まれたのでした。
義綱の側室の名は調べても出てこないので、佐代という側室がいたのか、モデルとなる人物がいたのかはわかりません。
ただ、政略の一環として女性が離縁させられて別の男に嫁ぐという話はしばしばあったようです。*2
佐代は重臣・温井氏の娘であり、父のライバルであった遊佐続光との再婚に強く拒絶しますが、結局は息子・義隆を守るために承諾。
子のためには自身の信念をも曲げられるのが母ということでしょうか。
いずれにしろ、弱体していく名門当主の側室という微妙な立場の心境がよく伝わってきました。


「湖の城」
相次いで当主を喪った井伊家ではやむなく戦死した直盛の長女、奈美が当主となり、女地頭として直虎を名乗ります。
しかし家老である小野但馬守とは過去の因縁があり、さらに今川家の意を汲んで徳政令を強要されます。
なんとか凌いで領内を固めるも、小野但馬守の謀反や織田・徳川に侵攻する武田の大軍、と立て続けに存亡の危機を迎えると、直虎も自ら鎧をまとって出陣することになるのでした。
私は大河ドラマは見ていないし、実際にどんな人物かよくは知らなかったです。
ただ、戦乱の時代に長きに渡って女地頭*3として領内を治め、幼い直親の子(後の徳川四天王の一人・直政)を徳川家康に仕えさせて、井伊家の命脈を守っただけに大河ドラマの主役になるだけの女傑であったのでしょう。
本来は嫁ぐ身であったのに運命に翻弄されて女地頭となるも胸中には不安を抱え、婚約者の子を守り、将兵たちを率いて戦場に立ったというエピソードがたいそう劇的でありました。
後の直政の重用や活躍を思うと、家康と直虎とのやりとりがなかなかに感慨深かったです。

*1:城主というより国自体を支えていた

*2:例として豊臣秀吉の妹・朝日

*3:鎌倉時代の役職とは違い、領主としての意味