13期・21冊目 『明日の空』

明日の空 (創元推理文庫)

明日の空 (創元推理文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

帰国子女の栄美は桜の美しさを楽しむ余裕もなく、不安いっぱいで日本の高校での初日を迎えた。幸いにも友達ができ、気になる男の子とも仲良くなれたものの、やがて辛い別れを経験することに…。時は流れ、大学生となった栄美の前に現れたある人との出会いをきっかけに、高校時代の思い出はまったく別の形を見せてゆく―。『慟哭』の著者が仕掛ける、忘れられない青春ミステリ。

高校生の栄美は生粋の日本人でありながら、生まれた時からアメリカで暮らしていたため、考え方はすっかりあちらの気風に染まっていました。
また、家庭で両親とは日本語で会話していたとはいえ、普段は英語を使っていたために、日本語に苦手意識を持っていました。
父親から散々日本人の独特な意識や慣習を吹き込まれていたので、日本の高校に転校後もなるべく目立たぬようにしていましたが、やはり帰国子女というのは珍しいようで、注目を浴びることに。
それでもなんとか仲の良い友達や格好良い男子とも話をすることができて、順調な高校生活を送ろうとしていました。
そんな時に一人の男子生徒・小金井がクラスで孤立していることに気づきます。
どうやら彼の父親が大麻の売人として逮捕されたのが原因らしく、栄美としては子供である彼までがクラスでハブられているのはおかしいと思うのですが・・・。


構成としては三部に分かれています。
第一部が帰国子女の栄美が日本の高校生活に馴染んでいき、クラスのイケメン・飛鳥部との交際があっけなく終わるまで。
第二部が六本木で手っ取り早く英語を学ぶのとチップを稼ぐために外国人相手のガイドを勤める大学生が黒人のアンディと仲良くなる。
第三部は大学生となった栄美が危うい状況でタイミング良く助けに入る山崎先輩の不思議な行動。
第一部での小金井の不審な行動や栄美と飛鳥部の交際がうまくいかなかった理由。
第二部で時々アンディががおかしな頼みをしてくる理由。
第三部前半で山崎先輩が栄美を助けようとした理由。
それらが終盤に一気に明らかにされます。




amazonのレビューを見ると、著者のファンからはライトな雰囲気が馴染まないということで評価は高くないみたいですね。
私自身はさほど読んでいる方ではなかったので、あまり先入観を持たずに楽しくスラスラと読めました。
読み終えた後に見事に騙されたなと思ったのが小金井の正体ですね。
日本で育っていたのならば意識するはずなのに、栄美がアメリカ育ちでごく当たり前に接していたことがポイントとなるわけで。小説ならではの見事なトリックだと思います。
ただ、青春小説と呼ぶにはやや語弊があるかもしれません。
アメリカ育ちにしては不用心というか、次々とトラブルに見舞われる栄美、それに彼女の周囲に登場する男の行動が極端に走り過ぎて、普通の学生っぽさが感じられなかったのですよね。
逆に大学生とアンディが友情を結ぶ第二部が良かっただけに、アンディの最後はもう少し希望が持てる結末*1にしても良かったんじゃないかなぁと思いましたね。

*1:手術するために渡米したとか