8期・54,55冊目 『レッド・デス(上・下)』

レッド・デス〈上〉 (創元ノヴェルズ)

レッド・デス〈上〉 (創元ノヴェルズ)

レッド・デス (下) (創元ノヴェルズ)

レッド・デス (下) (創元ノヴェルズ)

冒頭で南極の氷中から十万年前のオオナマケモノメガテリウム)が完全な形で発掘されます。
世紀の発見ということで、なるべくそのままのかたちでアメリカまで移送するためにその場で簡易的な剥製作業を行い、冷凍保存した一部を除いて内臓や血液のほとんどは海中に捨てられることに。
時が経ち、チリの南端にある島では獲れたばかりの魚を食べた一家を中心に恐ろしい病が発生。
やがて南米の周囲の地域、そしてニュージーランドでも同じような病が急速に広がりだしてばたばたと人が死に、手がつけられない状態に。
病にかかると発熱・頭痛のために顔が赤くなって鼻などから大量に出血、わずか数日で死に至るのが特徴であることから、かつてヨーロッパで猛威を振るった黒死病(ペスト)に比して赤死病-レッド・デス-と呼ばれるようになるのです。
それに立ち向かうはアメリカの生物学者であるメグ・カルフーン博士とイギリス保健省の議員ピーター・キャニング。
二人が国と立場を超えて協力しあい調査した結果、投棄された死骸の中に未知の病原菌が含まれており、それを食べたオキアミ→魚を経て哺乳類である人や家畜の体内にて復活したというのが結論でした。
南から北へと恐ろしい早さで広まってゆくレッド・デス、それに対してメグとピーターらは世界を破滅の危機から救うことができるのか?


パニックものの中でも未知の病原菌によるパンデミック*1を描いた作品であります。
似たようなテーマであれば、かつて『ザ・スタンド』『復活の日』『アンドロメダ病原体』を読みましたが、原因の特定・ワクチン生成などの対策をする前に深刻な被害が広がってしまうのがその恐ろしさであり、レッド・デスも同様の脅威を見せつけます。
黒死病に襲われた中世ヨーロッパと比べて現代は交通網の発達により、広まる早さとその範囲は段違いだし、医学は発達してもパニックに陥る人々の心理は変わらないものだと思い知れます。
それで、例にあげた作品に比べちゃうとなんですが、本作はひとことで言えば軽いなぁと。
レッド・デスに立ち向かう二人の男女がお互いに一目惚れしてデキちゃって、やたらとその恋愛模様にページが割かれる点とか、後半は日米ヨーロッパなど北半球の先進国にまで病気が広がってきているのに、主に主人公周辺ばかり描かれるあたりとか、良くも悪くも昔のハリウッド映画的ですね。
90年代に書かれた作品ですが、DNAなどの生物学に関することは素人なので、そのあたりは気になりません。
ですが、そもそもの発端が発見・解体した死骸の一部を何も考えずに海中に投棄しちゃったというのが時代を考えても配慮なさすぎじゃないかと思ったのですが。
読み物としてはまずまずなんですが、題材となるレッド・デスの脅威の割にはパニック小説としては俯瞰的な描写の不足とあまり緊迫感がないままだらだらとストーリーが進んでいった感があって、盛り上がりを欠いたまま終わってしまいましたね。

*1:ある感染症(特に伝染病)が、顕著な感染や死亡被害が著しい事態を想定した世界的な感染の流行を表す用語