5期・5冊目 『君よ憤怒の河を渉れ』

君よ憤怒の河を渉れ (ワンツーポケットノベルス)

君よ憤怒の河を渉れ (ワンツーポケットノベルス)

内容(「BOOK」データベースより)
東京地検のエリート検事・杜丘冬人は、新宿駅の雑踏で突然、女性から強盗強姦犯人だと指弾される。濡れ衣を着せられたその日から地獄の逃亡生活が始まった。自分を罠に陥れた者は誰なのか。怒りだけが彼の支えだった。巨匠の最高傑作長篇。

新宿の人ごみの中で突然強盗犯だと指弾され、当初は人違いだろうと高をくくっていたいたら、他にも犯行を証言する者や自宅から見覚えのない金が出てきたり・・・。
悪夢としか言いようの無い陥穽にはまったエリート検事が東京から北海道の山奥まで駆け巡る逃亡の中で、きっかけになったと思われる厚生省医事官の不審死の謎と自分を嵌めた黒幕を探るという復讐劇+ミステリ仕立てです。
西村寿行作品としては初期にあたり、構成としては社会派ミステリのジャンルながらも動物やサバイバル、ハードロマンといった、のちの作品群の要素が随所に見られる内容となっていますね。


ハードボイルドにつきものの暴力と女ですが、主人公の行動は意外なほどにあっさり。悪人に接しても無闇に危害を加えようとするよりは逃亡する方を選ぶのは元検事という職業的な縛りがあったのか。
逆境にめげず最後まで目的を遂げようする強い意志は心の奥底に絶えず、エリート検事から容疑者に堕ちた悲哀は陰影のある風貌に変える。そんな主人公はかなりモテます(笑)
北海道にて羆から命を救った縁で最後まで主人公を支援するヒロイン・遠波真由美をはじめ、強盗殺人の容疑者と知っていながらも行く先々で手を差し伸べる女性たち。でも逃亡中の身で相手に迷惑かかるからと決して一線を越えないところが紳士だなぁ。*1


検察庁警察庁のプライドを賭けた、異様とも思えるほどの包囲網を何度も敷かれながらも主人公はぎりぎりのところで切り抜ける。長い物語なのですが、ピンチを切り抜ける脱出行がどれも凝っていて飽きさせないです。
謎解きに関しては、見つからない毒の容器やツグミ・猿・羆が共通して見せる奇妙な行動、そして現場に残された出来損ないの蜘蛛の巣といった一見無関係な現象が見事に繋がっていく作りとなっています。*2なぜ他殺説を唱えた主人公が嵌められたのか最後に明らかにされます。ただ、繰り返される思考過程は冗長的に感じましたけどね。

*1:くわえて全国手配されていても一切変装しないところが不器用すぎる

*2:殺害動機としては充分だけど、手順としては若干偶然に頼っている感じもする