64冊目 『海の牙城(5) 真珠湾の凱歌』

海の牙城〈5〉真珠湾の凱歌 (C・NOVELS)

海の牙城〈5〉真珠湾の凱歌 (C・NOVELS)

出版社/著者からの内容紹介
トラ・トラ・トラ」我奇襲ニ成功セリ。満身創痍の日本軍は乾坤一擲、ハワイ攻撃を敢行。太平洋の覇権を決する戦いに、戦艦「大和」、空母「武蔵」「信濃」猛進! 海戦巨篇、堂々完結。

キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━(  ゚)━(  )━(゚  )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!!!
史上最大の空き巣狙い作戦大成功!
巨鳥(B29)爆砕!!!
3,4巻の本土・マリアナ近辺の日本軍の苦労が、見事に5巻で報われました。
迂闊にも発売日より遅れて入手したのですが、読み始めたら止まりませんでした。
今回も読んだ人しかわからない、気持ちが先走ってしまった内容になりそうなんで、ご注意を。


しかしあれですな。
『遠き曙光』から当シリーズまでの日本軍を見ていて、史実と比較しても運がいいと言えるでしょう。開戦当初の柱島空襲にしても、災い転じて福と成す展開になっていますし。そして極めつけが今回の、悪天候と米軍レーダー担当将校の判断ミスによる真珠湾奇襲です。
きっと「山口多聞は運のいい男でございます」と昭和天皇に奏上されたのではないかと。*1


そして今回、真珠湾を巡る戦いで、仮想戦記として珍しい点がいくつも見られました。

  • オアフ島の各飛行場に駐機していたB29を大量撃破

対B29というと幻の高性能戦闘機を出して撃墜するパターンは昔よくありましたが、所詮は一時的なもの。それこそドイツのMe262やTa152並みの戦闘機を大量生産&ある程度の錬度のパイロットが残っている&レーダー網も充実させる。そこまでやって始めて勝負になると思うのですが、そうすると国力までいじる必要が出てきます。
地上撃破なんて、最も効率良いけれど、同時にチャンスが少ない方法ですね。

せっかく護衛空母を撃沈して水路を塞いだのにと思いましたが、史実の真珠湾で沈められたこの艦がまさに最後の活躍をし、そして出撃する戦艦部隊と敬礼を交わす場面はジーンときましたね。

これは横山信義作品では恒例なんですが、今回も陸上機やら艦載機による空襲だけでなく、旧式戦艦にも勝つには勝ったのが、結構てこずりました。米軍の奮闘ぶりもちゃんと書くのが横山氏らしさですが。
それから駆逐艦魚雷艇群の来襲も、エアカバーが無ければやばいところでしたね。
また、柱島空襲時に独断で戦艦大和を攻撃した米軍退役軍人を最後に登場させるというのも、芸が細かいなぁと思わせる点でしたね。


最後の方はかなり端折った感じで不満は無くは無いですが、今回は外交・政治は極力省き、現場の人間を主にした描写だったので、仕方は無いかなと。その分、戦闘描写がてんこ盛りでしたからね。


それにしても当シリーズは史実と比較して、象徴的な出来事が見事に日米で逆転しています。
前巻で沈んだ「モンタナ」は、言わばレイテの「武蔵」でしょうか。
重油にまみれた真珠湾は、この世界では戦争の悲惨さの象徴としてヒロシマナガサキのような扱いにされそうな・・・いやアメリカのことだから強引に復活させるかな。
そしてアメリカが宣戦布告前に空襲を実施してしまった事実が最後に明かされるなんてのは、講和への布石として露骨でしたが。


講和後*2とか欧州方面の経緯が非常に気になるところですが、是非とも外伝を出して欲しいところです。
ともかく横山先生、専業作家10周年おめでとうございます。
そして10周年を飾る素晴らしい作品をありがとうございました。
そしてここはぜひとも映像化を!なんて希望を出してみる(B29爆砕シーンだけでも日本では大いに売り物になりそうな)。


( ´ー`)y─┛~~~~
なんて1日経って冷静になったら、完結後の不満点がいろいろ出てきたりしましたね。
マリアナの状況がしょぼ過ぎる。講和に至った経緯が横山氏の中でワンパターン化。それに国際情勢の描写が極端に少ないし。それもこれも、やはり真珠湾の戦いに記述を割き過ぎた弊害かと。


それから全体的には、一つ一つの戦いの描写は緻密になのですが、その周りはどうなっていたのかがよくわからないことが多かったですね。
例えば、本土防衛時に機雷は使わなかったのか、とか沿岸砲台は無かったっけ?とか・・・。
それからこの世界の海上護衛戦は、どうなっていたんでしょうねぇ?戦争後半に米潜水艦の跳梁が激しくなったとか、対潜用の一式陸攻が出てきた記述はありましたが。これってすごく重要なことですが、あんまり記憶がありません。*3


まぁ、欲を言えばきりがないですね。
それもこれも、ちゃんと続編を出してくれるから言えるわけで、贅沢なことかもしれませんよ(笑)

*1:日露戦争の折り、山本権兵衛海軍大臣明治天皇に対して「東郷(平八郎)は運のいい男でございます」と奏上したことのパロディ

*2:『修羅の波涛』に続く『修羅の戦野』みたいなシリーズはちょっと無理ですかね?

*3:読み返せって話ですが