11期・2冊目 『日本のいちばん長い日』

決定版 日本のいちばん長い日 (文春文庫)

決定版 日本のいちばん長い日 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

昭和二十年八月六日、広島に原爆投下、そして、ソ連軍の満州侵略と、最早日本の命運は尽きた…。しかるに日本政府は、徹底抗戦を叫ぶ陸軍に引きずられ、先に出されたポツダム宣言に対し判断を決められない。八月十五日をめぐる二十四時間を、綿密な取材と証言を基に再現する、史上最も長い一日を活写したノンフィクション。

昭和20年に入り、硫黄島陥落、日本本土への空襲激化、沖縄戦および戦艦大和特攻、ドイツ降伏と日本を取り巻く戦況は益々悪化。
7月に連合国側からの事実上の降伏要求であるポツダム宣言が発表されるのですが、未だ終戦に向けての国内の取りまとめができていなかった日本政府では受諾する態勢に非ず、黙殺という声明を出したことから、さらに広島への原爆投下、ソ連軍の満州侵略、長崎への原爆投下と続いたことにより、ようやく8/10の御前会議にて日本のポツダム宣言の受諾が決定されました。
そして8月15日正午の昭和天皇の肉声による戦争終結を告げる玉音放送については有名ですが、受諾決定から放送に至るまでの間、特に14日から15日の放送開始までの丸一日において激しい動きがあったことは詳しくは知りませんでした。


一時間ごとのタイムテーブルに区切りながら当時何が起こったのかを存命していた関係者への取材や史料をもとに詳細に記したのが本作になります。
後世から見れば、軍事的には制海権と制空権を取られて挽回は不可能、海上封鎖と相次ぐ空襲によって国民が塗炭の苦しみに喘いでいる状況では戦争終結を急ぐべきだと思うところです。
しかし陸軍をはじめとして本土決戦を叫び、和平工作を潰そうとしている勢力があったので単純にいかなかったのは確か。
昭和天皇を中心としてそれぞれの立場の人間の思惑があって、政府・軍が動いていた様子がわかります。
読んでいて思ったのが、閣議終戦を決めるに際して、首相・鈴木貫太郎陸相阿南惟幾の二人が重要な役割を占めていました。
したたかに閣議を導いた鈴木首相による二度の宣言受諾の意思表明(いわゆる聖断)が無ければ政府としての意思がまとまらなかったし、阿南陸相は聖断が下ってからは素直に終戦詔書に同意しました。そして戦争継続に向けてクーデターを起こそうとする部下を退けてあくまでも終戦詔書を重んじたのは大きかったです。
もともと戦争遂行について対立することの多かった二人の大臣ですが、内心では互いの立場を理解し尊重し合っていたわけで、内閣総辞職を決めての別れの場面はとても印象的でした。


侃々諤々の議論の末に決まった原稿を元に昭和天皇の肉声が録音された(14日)のですが、放送を行うまでの間に起こった陸軍少壮将校たちによる決起、師団長殺害と偽命令による近衛師団兵による宮城占拠事件が発生。さらに航空学校生徒を率いて焼き討ちを起こした佐々木大尉(陸軍)や小園少佐(海軍)による厚木航空基地での徹底抗戦呼びかけなど、予断を許さない状況が続きます。
最終的に鎮圧されたとはいえ、武力に訴えた徹底抗戦派によって政府首脳はもとより録音レコードも狙われ、機転を利かせて逃れるなど、かなり際どい状況だったことがわかります。
この宮城占拠事件についてはよく知らなかったのですが、一歩間違えたら8/15の終戦はなく、さらに戦争が続いていた可能性もあったわけで*1、まさに歴史の分かれ目であったと言えます。
そういえば開戦時と比べて、終戦前後の経緯はあまり知られていない気がしますね。
そういう意味では21世紀の今となっては貴重な記録の数々であり、戦後を知る上で広く読まれるべきドキュメンタリーだと思います。

*1:満州樺太・千島列島におけるソ連との戦闘は続いていたが、アメリカ軍は8/15未明を最後に空襲は控えていた