まいん 『食い詰め傭兵の幻想奇譚14』

食い詰め傭兵の幻想奇譚14 (HJ NOVELS)

食い詰め傭兵の幻想奇譚14 (HJ NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

憤怒の邪神を退け、ついに元団長のユーリと再会したロレン。近況報告もそこそこに、ロレンはユーリから、憤怒の邪神に対抗する手段を取ってきてほしいという依頼を受ける。その先には新たな邪神が待ち受けており―。これは、新米冒険者に転職した、凄腕の元傭兵の冒険譚である。

前巻にて、帝国と王国による大規模な戦争に帝国側として参戦する依頼を受けたロレン一行(ラピス、グーラ、ルクセリア)。
遊撃隊として戦場に出た際、なぜか王国側についた憤怒の邪神ことレイスが敵味方を巻き込む広範囲かつ強力無比な炎の魔術の前に危機に陥り、なんとか凌いで逃げ延びました(グーラ、ルクセリアは通常なら死ぬところを負傷で済む)。
レイスの情報を帝国軍にあげたところで、今や将軍の一人となっていた元傭兵団長ユーリと再会。
久しぶりに会ったユーリとの話はロレンにはいろいろと納得しがたいものの、今はレイスへの対抗手段を取るため、ある洞窟を目指すことになったのでした。
なんとか目的地まで辿り着いて、なぜかロレンが封印を解除することに成功。目的であった強力な冷気をまとうファルシオンを得ることができました。
しかし、そこで敵方にまわった傲慢の邪神スペルビアが登場。
まっとうな手段では倒すことが難しいと感じたロレンはある奇策によって、ファルシオンごとスペルビアを洞窟内に封じてその場を去ります。
とはいえ、レイスへの対抗手段を得ることができずじまいのまま。
そこでレイスには滅法相性の良い怠惰の邪神ダウナを連れて来させることを考えたのですが、どうやって邪神の住処に行くかが問題。
ここでもユーリからある廃教会に行くように指示されて行くと、地下には邪神の住処に繋がる道が。ユーリはいったい何者かが気になるのでした。


それなりに人智を超えた戦いが描かれてはいたのですが、淡々としすぎていて、なんとなく面白味に欠ける気がしたのはなぜでしょうか?
おそらくそれは敵味方に分かれた邪神同士の戦い……というよりいかに相手の力を封じるかがメインとなっていたこと。ロレンが本気を出して戦ってなく、最後は力尽きてベッドで寝ていなかったからでしょうか(笑)
ストーリーは安定しているのですが、初期の頃のようなドキドキワクワク感はなくなってマンネリを感じました。
むしろ、読者が気になったのはロレンおよびユーリの正体でしょうね。
古代王国の話題が出てきたことにより、なんとなく関係ありそうな感じはします。
でも、おそらくそれは最後まで取っておくつもりであり、今は匂わせるだけなんでしょう。
それから2人の美女と同じ部屋に泊ったのに、まったく煩悩の無いロレンの聖人ぶりには味気無さを感じてしまうかな。
これまで幾多の戦いを共に潜り抜けてきた仲間ですし、嫌ってはいるわけではないでしょう。若いのにそこまで淡泊というのもね。
いくら女性陣に癖がある(自分より強い)とはいえ、全力で遠ざける*1のも不自然きわまりないです。

*1:全年齢対象ゆえに性行為が書けない制約があるのだとしても。

横山信義 『荒海の槍騎兵3-中部太平洋急襲』

荒海の槍騎兵3-中部太平洋急襲 (C★NOVELS)

荒海の槍騎兵3-中部太平洋急襲 (C★NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

開戦直前フィリピンへ移動した米太平洋艦隊によって日本の南方戦略は瓦解の危機に瀕したが、急遽集結した連合艦隊が猛反撃、辛うじて米英主力を撃破した。だが、この機に講和交渉に持ち込もうとする日本の意図は一蹴される。壊滅状態に陥った太平洋艦隊の再建に時間を要すると見た新司令長官ニミッツは手持ちの戦力を以て連合艦隊の戦力を叩く作戦を打ち出した。日本の機動部隊を自軍に有利な海域におびき出し撃滅するのだ。新指揮官の下、大西洋から回航された空母群が真珠湾を出撃する!

初手でフィリピンまで遠征した上、英国東洋艦隊とも協力して決戦に挑み、大敗した米海軍への風当たりは強く、なんらかの戦果をあげる必要が出てきたところで、もともとの領土であったウェーク島に攻め寄せてくるところから始まります。
最前線といえども、占領して日の浅いウェーク島にはさほどの戦力は置いてなく、機動部隊をもって押し寄せた米軍にとっては鎧袖一触。一気に奪い返しにきます。
そこで連合艦隊も本土で改装中の飛龍・蒼龍を除く機動部隊に新たな長官・小沢治三郎を迎えて、反撃に出るというわけです。

この時点では大西洋から戦艦と空母が回航されてきたといっても、主力の空母は日本軍の方が戦力が上ですからね。あえて言えば、米軍は新鋭戦艦サウスダコタが加わったのに対し。機動部隊に随伴するのは比叡・霧島なので主砲口径・防御力とも劣ります。*1
時期的に史実のミッドウェー海戦の前くらいでしょうか。
ただし、東京空襲はなく、講和の申し出を蹴ってはいても、政治的にまずい状況なのはアメリカ側であります。
かくして、回航されてきたワスプを加えて空母3隻が主力の米太平洋艦隊に対し、連合艦隊正規空母4+軽空母2という布陣で戦いが始まります。

率直なところ、いくら日本軍有利とはいえ、うまくいきすぎたかなと思うところはあります。かつての著者の傾向からすると。
確かに米軍は防空巡洋艦の脅威に対して工夫をしてきましたし、日本側は正規空母に損害を受けました。それでも、米軍の空母の撃沈に成功しています。まぁ、この頃の日本軍のパイロットの技量は高かったので不自然ではありません。
その後に米軍が夜戦で砲撃部隊を接近させてきて、空母が危機に陥る展開は著者のシリーズで何度も読んでます。駆逐艦の砲撃を浴びて、少しずつ傷ついていくあたりとか。
護衛の防空巡洋艦が奮闘して次々と駆逐艦を沈めるも、自身も損害を受けて件戦能力を喪失し、あわやという場面で加賀が自力で砲撃して撃退するのがちょっと新鮮だったでしょうか。

日本軍にとってはパーフェクト勝ちではなかったけど、許容できる損害で終わらせることができました(損傷艦は多いので修理に時間がかかる)。
アメリカは今回も敗退して稼働空母が減少したけど、講和を結ぶつもりなど全くなく、逆に翌年になれば次々と戦力が出てくる。懸念点としては人員の損耗くらいでしょうか。
結局、終戦への道は欧州戦線次第となりそうですよね。
でも、あちらは史実とほとんど変わりなさそうな気がするんですが。

*1:戦艦・大和は戦力化されたばかり。

篠田節子 『聖域』

聖域 (集英社文庫)

聖域 (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

異動先の編集部で、偶然目にした未発表の原稿『聖域』。なぜ途中で終わっているのか。なぜこんなに力のある作家が世に出ていないのか。過去を辿っていくと、この原稿に関わったものは、みな破滅の道へと進んでいる。口々に警告されるが、でも続きを読みたい、結末を知りたい。憑かれたように実藤は、失踪した作家、水名川泉を追い求め東北の地へ。そこで彼が触れたものは。

やり残した仕事に未練を持ったまま、編集者・実藤が辞令をもって異動させられたのは斜陽の文芸雑誌。
もとは月刊であったのが、発行部数の減少によって季刊へと縮小されていた。
突然辞めてしまった前任者の荷物を整理していたら、多数の原稿が出てきて、さほど期待も持たずに念のために読み始めたところ、ある未完の原稿に夢中になってしまい…。
実藤が時を忘れるほどに読みふけったのは水名川泉という作家による『聖域』という作品。
実藤は聞いたこともない名に訝しむものの、この続きを読みたくてたまらなくなってしまいます。
そこで、前任者を始め、著者と交流があったという作家、果ては水名川泉本人に会うために北へ足を伸ばしていきます。その目的は続きを書いてもらうため。
しかし、水名川泉に関わる者は命を落としたり、不幸に遭うなど、良からぬ影がちらつくのでした。


内容は本州北の果て・津軽の村に赴いた天台宗の僧・慈円が自然崇拝の残る村民をなんとか布教しようするが、思うようにいかずに病に倒れてしまうことも。
村民らの信仰の鍵が岬の先にある霊山だと知った慈円は反対や妨害を押し切って向かい、この世ならざるものと遭遇するところまで。

仏教、新興宗教団体、即身仏、イタコ…等、著者のこれまでの作品と同様、濃厚に宗教が絡んでくる内容となっています。純粋な信仰ばかりでなく、教団を通じて金や権力、あるいは故人への愛憎など、人の業の深さを描いているのも著者らしいです。
時を忘れるほど夢中になった作品の続きを読みたい。
本好きならば誰でも願うもの。ましてや、編集者という立場にあれば、作家に直々に申し入れることができます。
しかし、当の作家が行方不明であったら?
仕事を離れてまで水名川泉の行方を捜しに何度も遠くまで足を向けるあたりに実藤の執着心の強さを感じます。
宗教団体の教祖に収まったり、かと思えば追い出されてイタコになっていたりと、水名川泉もだいぶミステリアスな人物であるのは確か。
実は実藤には異動前に好意を抱いていた自然派の女性ルポライターがいたのですが、彼女はチベットに行って命を落としたことが暗い影を落としています。
水名川泉に関わることで、故人への深い悔恨が炙り出されていくようで、時折実藤が彼女の幻想を見る場面は切ないというか、救いようのなさを感じたりしました。

医者が空いていた

※これはあくまでも、最近個人的に体験した出来事に対する雑感です。

先週の木曜・土曜、今週月曜にかけて、珍しく医者通いしてました。
眼科で検査と目薬をもらうため。そして、いよいよ始まった花粉症のためです。
どちらも目薬をもらう関係でそのまま出して良いのか、先に行った眼科の先生に確認を取るために二度ずつ行くことになり、二度手間となってしまいました。

眼科(仮にA眼科とする)の方は駅ビルにある関係か、祝日や日曜でも午前中開いているのはいいのですが混みます。
特に土日は10時の開店と同時に急いで行かないと、たった10分の差で10人くらい待っているほど。

毎年花粉症の時期に行く医者(Bクリニックとする)は病院とまで行かなくてもアレルギー専門の先生がいて、入院も可能である、そこそこ規模の大きい医院です。
娘が小さい頃からのかかりつけなのですが、特にインフルエンザと花粉症の時期は混みます。
娘が小学校低学年の頃まではよく土曜の朝から通っていました。待合室が埋まるほどに子供連れが多くて、トータル二時間程度かかるの普通。終わる頃には11時過ぎていて、近くの日高屋でラーメンを食べたり、買い物ついでに昼食も買って帰ったこともありました。
当然、待ち時間を減らしたいために始まる時間に合わせて行くつもりでした。


2/11(木・祝):10時の駅ビル開店に合わせて行く。A眼科到着時にはすでに人が来ているも、たった3組だったので一安心。1年半ぶりだったのでいろいろ検査など受けたが、トータル1時間で完了。

2/13(土):花粉症の薬をもらいにBクリニックへ。到着したのは9時ちょうど。いつも9時前から待っている人がいるくらいで、二つある駐車場の近い方はすぐ埋まってしまうのに車は3台だけ。待ち時間はほとんどなくて、すぐ呼ばれた。これは珍しいこと。
処方箋をもらって薬局に行ったところ、先にA眼科でもらった目薬と一緒に服用していいのか判断がつかないため、眼科医に確認することに。
午後、A眼科へ。この時は7,8組いた。

2/15(月・休暇):もう一度にBクリニックへ。到着したのは9時10分くらい。駐車場に停められていた車はたった1台。今日は休みかと思ったくらい。ちょうど終わったところらしくて、待ち時間なし。


前に聞いた話では、市内の総合病院はたいそう混雑していたそうです。
また、去年12月に義理の父が入院・手術したのですが、通常よりも早く退院させられました。
新型コロナ患者も受け入れていることもあって、病床が逼迫しているせいや感染リスクを避けるためかもしれません。
大きい病院はかなり厳しい状況のようで、雰囲気もピリピリしていると聞きました。

それに対して、市内の医者は空いているところは空いているんでしょうか。
今なお埼玉県の非常事態宣言は解除されていない状況ですし。感染リスクを避けるため、どうしても急いでかかる必要のない人は医者に行くのを控えているということでしょうかね。
私としては助かりましたけど。

ポイント投資を始めて1年

前提として、投資自体はド素人な私です。FXや仮想通貨が流行っても、見向きもしませんでした。
まぁ、投入できるほどに資金に余裕ないというのもありましたが。
元金を割るのが嫌で、せいぜい国債を買ったことがあるくらいですね。
しかし、超低金利時代が続く中、ノーリスクでお金は増えません。
将来、年金がどれくらいもらえるかの保証もない。
だったら、今から自分で備える必要があるということで、まずは小遣い程度の範囲で始めることにしたのが1株からの株運用と積み立てNISAでした。

「1株から株が買える」「500円から株が買える」
といった歌い文句の広告をあちこちで見かけます。
TSUTAYAのレンタルは利用しなくなりましたが、Tポイント自体はちまちま貯めていて、オンラインショップで漫画やCDを買ったりしましたね。*1
でもどうせなら、別の使い方はないか?
そこで目を付けたのは1株からの株の運用でした。
1年前の時点で5つくらい似たようなオンライン証券はあったでしょうか。
少し迷った末にSBIネオモバイル証券に決定。
ちょうど1年前、2020年の1月から始めてみたのです。

【公式】SBIネオモバイル証券 - 口座開設はこちらから

SBIネオモバイル証券では、月額220円(税込み)の手数料がかかりますが、その分200ポイント(期間限定)がもらえます。
通常、単元株といって通常の取引では100株単位(少なくとも数万円必要)のところを1株500円(ポイント)程度から始められるのが売りであるのですが、銘柄によって単元株でしか買えないものもあるようです。
また、不定期ですが、IPOといって上場前の株を購入することができます。
IPOは上場前の購入額より格段に上がって利益を得やすいすが、抽選方式なのでいつでも購入できるわけではありません。
私も6回くらい応募して、当たったのは一度きりでした。

私の場合、使用するのはTポイントのみ。一切現金は使っていません。
その代わり、クレジットカードで貯まるポイントやアンケートサイトその他あちこちからTポイントに変換して、月1500~2000ポイントを投入していきました。
まぁ、人にお勧めできるようなたいした運用はしていないので、詳細は省きます。
1年間かけて貯まった資産としては24,000円程度(うち利益は1割くらい?)。売買したのは14銘柄でした。
うん。本当にお小遣い程度ですね。
初めの3ヶ月くらいは適当に売り買いしていました。コロナ禍でがくっと下がっていた銘柄をいくつか買い、上がった段階で売り払って利益は出せたことは出せました。
しかし、売り買いのタイミングが本当に難しい。
もっと勉強して知識を得て、株価の上下を調べた方が良かったかなぁと思います。
数百円で株投資が始められる。初心者が余ったポイントで気軽に株投資が始められる。というのは嘘じゃないです。
でも、それだけじゃまったく足りない。
本当に株投資で貯蓄を殖やしたければ、それなりの種銭と勉強が必要ですね。


続いて積み立てNISA。
つみたてNISA(積立NISA)| NISA(ニーサ):少額投資 ... - 楽天証券

つみたてNISAとは、特に少額からの長期・積立・分散投資を支援するための非課税制度で、毎年40万円を上限として一定の基準を満たした投資信託に積立投資することができます。
投資をした年から最長20年間の間に得た分配金と売却益(譲渡益)が非課税になり、通常口座でかかる20.315%の税金がかかりません。非課税で投資できる総額は最大800万円(年間40万円×20年)となります。

今は定期預金にしても利息がまったく期待できません。
代わりに積み立てられる投資を考えていましたが、以前から楽天会員だったので、どうせなら楽天ポイントでやってみようかなと。
こちらは楽天ポイントと休眠に近かった楽天銀行イーバンク時代に開設)の口座から半額ずつ、6つのファンドに毎月それぞれ数百円単位で積み立てています。
楽天証券楽天銀行の口座を連携することで利点ができます。

・マネーブリッジ:銀行と証券の口座間の資金移動が簡単になったり、普通預金の優遇金利(0.1%)やサービスの利用に応じてポイントがもらえる。
・ハッピープログラム:取引ごとにポイントが貯まる。またATM手数料が最大7回/月、振込み手数料が最大3回/月まで無料となる(利用状況のグレードによる)。

各ファンドの年率はその時に応じて変動しますし、マイナスになることもあります。
12月末時点で平均年率は7.5%ってところです。
こちらは長期で運用するものであり、これからも続けていくつもりです。

*1:実は使えるチェーン店が減って、前よりも貯まらなくなった。また書籍やCDはamazon楽天を使う方が多い

壬生一郎 『信長の庶子五 理の頂上決戦』

織田信長の幻の“長男"にして、母のもたらす奇妙な知識によって
幼い頃からその名を轟かせてきた帯刀。
織田家と大阪本願寺との直接対決が迫る中、帯刀は、
宗教勢力を相手に、その是非を論じる公開討論に挑む。
戦国という時代にありえないはずの“死者なき戦"その行方は 弟で嫡男の勘九郎が抱く、ひそかな悩みとは…。
そして伊賀に帰った帯刀を待っていたのは、〈信長暗殺〉の報せ!?
あの謎めいた軍師の秘密も大幅加筆&書きおろしは、宗教討論直後の帯刀たちのエピソード!

五巻では帯刀が関わる大きなイベントが二つ。
前半が主な宗派を集めた宗教討論。
寺社勢力が武装して大名さえ圧倒していた時代に武力ではなく、討論で争わせようという試み。京で行われるこの討論は娯楽が少ない時代ゆえに大いに関心を集めて、公方や天皇まで臨むという大掛かりな催しとなりました。
天台宗延暦寺
禅宗からは臨済宗
神道
キリスト教からイエズス会
浄土真宗本願寺
そして、織田家代表として帯刀こと、村井重勝(旧名・織田信正)。
宗教討論といっても、他の宗派を味方につけた織田家本願寺との武力なき戦いでした。
対決相手が本願寺でも強硬派の教如なのですが、作中では大坂にお忍びで潜り込んだ帯刀とは面識がある相手。
ですが、互いに家門の代表として出てきた以上は手を抜くわけにはいかない。
かくして、舌戦の火ぶたが切られたわけです。

戦国時代、特に信長が関わった以上は本願寺を始めとする宗教勢力との対決は避けられないもの。
正直、web上で読んだ時、よくぞここまで踏み込んで、まとめたものだと思いました。
なにせ、宗教は一般読者には難解でエンタメとして不向きな割には中途半端な描写では冷めてしまう。扱いが難しいテーマでしたから。

結果的に白黒がつくというより、織田家が目指す天下一統、宗教勢力には武力を用いさせないが布教自体は自由とする方針を本願寺が受け入れようとなりました。
史実では信長から家康の代までかけて成し遂げたのを帯刀の弁舌によって道筋をつけたのは大きいと思います。
いろいろと課題は残りますが、織田家本願寺との間で本格的に和睦が結ばれようとしたところで、面白く思わない勢力が事を起こします。
すなわち信長狙撃*1が起きて、生死不明の状態となります。
そこで一斉に三好、高野山粉河寺、熊野三山雑賀衆根来衆、北畠や六角などの残党(かつて追放された林父子まで含む)といった反織田勢力が一斉蜂起。
たちまち畿内は西部と南部が失陥。*2幸いなことに本願寺は強硬派だけが出て行って、顕如は中立を宣言しました。
大和が落ちた後、帯刀が領する伊賀は最前線となり、2千程度に対して1万を超える軍勢が押し寄せることに。
緒戦で鮮やかな勝利を収めましたが、集結した敵によって本拠地丸山城の攻防戦が始まったのでした。

実をいうと帯刀は戦よりも内政の人で、伊賀においても住民慰撫や街道整備、特産品にも力を入れて、荒れた国内を富まそうとしているんですよね。
本格的な戦は少なくて、宇佐山および金ヶ崎の退却戦くらいですが、どっちも劣勢な中で良く戦っているので、諸将の評価は高いのです。
それと前田慶次郎や古田佐介(重然)を始め、大宮景連や前田利久松下嘉兵衛(之綱)、伊賀においては百地丹波と一癖も二癖もあって有能な武将たちの人望を集めて兵も意気盛ん。
とはいえ、相手の兵力は膨らむ一方で、帯刀の元には肝心の情報が入ってこなくて、長らく苦しい籠城戦が続くのでした。
本願寺が中立となったため、史実の信長包囲網と比べたら相手は小物の寄せ集めと言えたかもしれません、
しかし、劣る兵力で最前線に立つ者は生きるか死ぬかの瀬戸際なのは確か。
信長が復活するまで約2か月。よくぞ戦いぬいたと思います。ただし、犠牲はあまりにも大きすぎました。
IFとはいえ、戦記ものである以上、親しい人の死は避けられないあたりをちゃんと描いていましたね。

この度の戦で帯刀は伊賀を守り切り、信長の子の中で群を抜く戦功をあげました。
しかしいいことばかりでもなく、後継者として帯刀を推す声があがって織田家中を割る事態が予想されます。
そこで締めとして、今まで馴れ合いもあった兄弟の中で、信重改め信忠が後継者としての自覚を表し、帯刀が臣下の礼を取るという象徴的な場面が描かれたのが良かったです。

*1:史実でもあったように実行者は杉谷善住坊

*2:野田城明智光秀を除いて摂津勢は壊滅、近江は秀吉、伊勢は北部で信孝・信雄が踏ん張っている状態。

数多久遠 『航空自衛隊 副官 怜於奈』

二年前、沖縄那覇基地に転属してきた幹部自衛官の斑尾怜於奈は異動時期を迎えていた。
その彼女に下ったのは、思ってもみなかった南西航空方面隊司令官付き「副官」の辞令。
副官は激務として知られると同時に優秀と評価される者が就くポジションだが、その仕事内容を知らない彼女を待っていたのは……。

表紙とタイトルから、副官となった若い女自衛官の日常もしくは成長物語、どちらかというと有川浩のようなライトノベル寄りという印象がありました。
実際は元自衛官の著者の経験を活かした、きわめてリアルで、悪く言えば地味な仕事中心の内容となっています。
そもそも主人公・斑尾怜於奈(まだらお・れおな)二等空尉が副官を望んでいたわけではなく、高射群*1の小隊長を務める現場の人。防空訓練でトップを取れなかったことを今でも悔やんでいるという描写があるように、高射のスペシャリストを目指している人物でした。
それが新たに赴任する南西航空方面隊司令官の副官という話が巡ってきて、動揺します。
副官とは企業の秘書に近いイメージがありますが、実態はかなり違いがあります。確かに仕事的には補佐ではありますが、秘書よりも全体を見通す必要があるような感じでしょうか。
実際に副官自体は昔から軍隊につきもので、司令官を補佐するために優秀な人物が登用され、出世の近道でもあったようです。
自衛隊における女性自衛官(WAF)の各分野への進出という背景があって、怜於奈の抜擢があったように描かれています。


本当にやる気はなかった怜於奈ですが、紆余曲折あり、この経験が後に役立つだろうと思いなおして副官になります。
そんな彼女の日常は司令官が新たに入居するマンションの掃除から始まりますが、各部署への挨拶回りからスケジュールの調整といった地味だけど重要な毎日。
高射の現場にいたら知らなかった組織の運用についても学べたり。
かつて米兵が起こした事件が沖縄の軍隊に対する感情に暗い影を落としていることを改めて知ったり、
沖縄に駐屯する自衛隊のリアルを知ることのできる内容となっています。
赴任してきた司令官は元パイロットであり、沖縄の基地に所属していたこともあります。
なぜ司令官が沖縄への赴任を希望してきたかの理由、遠隔地への転勤が多いことも絡めて、家族の事情が描かれたのは良かったです。

最後は偏向報道として知られる地元メディアの取材。
そして、哨戒機に搭乗して、中国漁船による領海侵入が取りざたされている尖閣諸島への視察が描かれます。
怜於奈の一言がきっかけでマスコミを視察に同行させるというのは良いアイデア
そこでかつて揶揄された沖縄紙だけでなく、なるべく中立に取り上げて欲しいと東京の局に打診したのですが、沖縄紙が急に取材要望して、結局同行するのが元自衛官のユーチューバー。
今らしいといえば今らしいのですが、ちょっと残念だったような。やっぱりフィクションといえど実在の放送局をモデルにするのは難しかったのでしょうか。
メディアが報じているのとは違う、尖閣諸島問題の現実を知るという面では素晴らしかったとは思うのですが。

内容的には元々軍事に興味ある人向けなのかなぁと思いますが、自衛隊に興味を持ち始めた人にも向いているんじゃないでしょうか。
これが男性主人公で、もっと硬いタイトルだったら、本当に手に取る人は少なかったでしょうね(笑)
個人的にはこの路線で続いて欲しいと思っています。

*1:地対空ミサイルにより敵航空機・ミサイルを迎撃する航空自衛隊の部隊