横山信義 『蒼洋の城塞6-城塞燃ゆ』

蒼洋の城塞6 城塞燃ゆ (C★NOVELS)

蒼洋の城塞6 城塞燃ゆ (C★NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

連合艦隊は奇策により、ラバウルに迫る米艦隊に大打撃を与えて撃退することに成功した。戦力を整えるための時間を稼いだ日本軍は、「信濃」「陸奥」の両空母と新型戦闘機「陣風」を配備するが、この戦力で次なる来寇に抗し得るのであろうか。日本の完全屈服を目論む米国は、首相となった山本五十六の講和の申し出をも一蹴、かつてない大兵力をもって攻勢作戦を発動した。果たしてこれが最後の戦いになるのか?山本が目指した日米講和は結実するのか―。シリーズ最終巻。

前巻のメジュロ奇襲が契機となって米軍司令官の焦りを呼び、見事な勝利を掴んで時間稼ぎを果たした日本軍。
そこで東条英機に代わって首相に就任した山本五十六が講和を実現しようと動き出しますが、全面的な屈服を目指している連合軍は相手にしようとしません。
そうしているうちにマッカーサー率いる米陸軍はラバウルを迂回し、ニューギニアを西進して着実に占領地を広げていきます。
海軍は空母を次々と戦力化。その矛先はフィリピンかマリアナか。
いずれにしろ物量に勝るアメリカ軍の大攻勢が始まろうとしていました。
日本軍も新鋭空母・大鳳の他、空母改装の陸奥信濃と戦力化していましたが、搭載機の数が違いもあって、まともにぶつかりあえば不利は否めません。
そこで、B29の日本本土空襲を防ぐためにも陸軍に協力を要請してマリアナに戦力を集中。主力空母を擁する機動部隊はパラオに待機して待ち受けることにしたのでした。

昭和19年中頃に差し掛かっていて、史実ではマリアナ航空戦が生起しています。
艦爆は彗星、艦攻は天山に変わり、形だけでも再建された機動部隊は文字通り壊滅したわけですが、本作では戦闘機もF6Fを上回る性能を持つ艦戦・陣風に置き換わっていて、質も維持されているようです。
序盤ではパラオ在泊中にB25の空襲を受けるも、信濃装甲空母の防御力を発揮して、ほぼ無傷。航行に支障が出るほどの損害を負っていたら、その後の航空戦の結果も違っていたはずなのでので、賭けに出て勝ったのは大きいです。

その後はやはり四つの空母群(それぞれ正規・軽空母合わせて3~4隻ずつ)を擁した米機動部隊がマリアナに来襲。
しかし、タイトル通りに堅陣を誇り、寄せ付けません。
ここで総司令官が大砲屋のキンケイドであったことが影響して、早くも艦砲で基地を叩き潰そうと戦艦を繰り出してきます。
ここで日本軍は戦艦を出すのではなく、迎え撃ったのはこれまで大活躍の呂44を始めとする潜水艦部隊。
これが米軍の意表を衝いたのか、策が見事に当たります。
結果的にサイパン島を砲撃していた2隻は艦尾など致命的な損傷を受けてしまいます。潜水艦を狩ろうと出てきた駆逐艦には陸上砲台が攻撃して、潜水艦の逃走を助けるなど協同が巧くいっていますね。やや都合が良すぎる気がしなくはなかったですが。

そして、主役たる空母同士の決戦。
米空母の防御力は際立っていて、おそらく通常攻撃が通用する最後の航空戦って感じがしました。
日本側はでかくて目立つだけあって、陸奥信濃に被害が集中。善戦するも結局沈められた陸奥は不憫でした。前哨戦を含めて何発も爆弾を叩きつけられながら生き残った信濃はさすが。
史実ではこれ以上ないほど不遇な運命を終えた艦でしたが、元は大和型戦艦だったのは伊達じゃないタフネスぶりを見せたのが良かったです。

航空戦が痛み分けに近い結果(艦の沈没・損傷だけで言えば日本軍の辛勝)となって、その後はお決まりの戦艦同士の叩き合いとなったのですが、そこで両軍とも航空機が攻撃に参加したので、距離はありながらも乱戦といった状況でした。
そこで主役になるはずの大和・武蔵に米軍機が集中したせいで砲撃に集中できず、代わりに長門が大活躍したのが意外でしたね。
事前にアラバママサチューセッツが潜水艦の雷撃を受けて退場していたのが効いていました。
勝利する自信たっぷりだったウィリス・リー提督が計算違いにより最終的に負ける展開はもはや著者のシリーズではお約束になっているような。
それでも読みがいがあって毎回ハラハラさせられるのでやめられないのですが。

欧州情勢としては、連合軍の大陸反攻(いわゆるノルマンディー上陸戦)がアイゼンハワーの優柔不断によって延期。
しわ寄せを喰らったイギリスはV1とV2ロケットの攻撃に晒されて本土南部が壊滅。継戦派として一貫して戦争を指導してきたチャーチルが死亡して単独講和に傾いてきたあたりで日本にも講和のチャンスが芽生えたという流れになっています。
まぁ、よほど歴史を変えないかぎり、日米だけでは講和の可能性はないから欧州の変化頼りなのはいつものことです。

6巻で完結ということで最後は略したり駆け足気味でしたが、全体的には面白かったです。
次シリーズが8月発売予定ということで、早くもamazonに載っていましたね。
主役は防空巡洋艦として生まれ変わった青葉と加古だとか。
サブタイトルがなんだか不穏?
『荒海の槍騎兵1-連合艦隊分断』