壬生一郎 『信長の庶子四 関ヶ原夜話』

信長の庶子 四 関ヶ原夜話 (ヒストリアノベルズ)

信長の庶子 四 関ヶ原夜話 (ヒストリアノベルズ)

  • 作者:壬生一郎
  • 発売日: 2020/05/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

内容(「BOOK」データベースより)

織田信正―通称帯刀。一部の史料にしか名を残さず、一般的にはその存在を認められていない織田信長の“幻の長男”である。弟の家臣として生きることを選び、村井重勝と名を変えた彼は、戦場で、内政で、獅子奮迅の活躍。織田家は再び、攻勢にでた。存在しないはずの“幻の長男”は、日本の運命を大きく変えていく―!!“本能寺の変”が起こる天正十年まで、あと十二年。

すでに完結していますが、「小説家になろう」の歴史ジャンルでは今もって一番好きな作品です。
一,二巻連続刊行の後に間が空きましたが、コロナ過においても無事四巻が出版されて良かったです。

まず今回の目玉は第三次長島攻略戦。
そして百地丹波を味方に引き入れた帯刀(庶長子としての名乗りは織田信正村井貞勝に養子入りしてからは重勝)による伊賀攻略です。
長島一向一揆殲滅は史実よりも2、3年早まっているし、強硬策より調略を取ったことによって史実で二度に渡った天正伊賀の乱を起こすことなく平定できました。
史実の伊勢・伊賀平定では戦下手な信雄がやらかしているところを帯刀に任されたことで巧くいっている様子が描かれますね。
信長が感謝するのも当然で、家督は譲れなくても子世代の中でも一番に頼りにするのはわかります。
また、冒頭では加賀の一向一揆に端を発した混乱において、浅井直政が北上。勢いのままに越前を攻略して朝倉氏が滅亡。
後半ではなんと武田信玄上杉謙信が和睦するという椿事が描かれました。
これも史実よりも早期に伊勢・伊賀・近江が安定して本願寺の勢力が弱まり、織田家の勢力が増した関係でしょうか。織田・徳川に加えて浅井との同盟も継続していますし。
ただし、久政には帯刀が直接対決して裏切りのけじめをつけさせたところが最後のみどころとなりました。
もう一人の転生者とパラレルワールドを示唆しつつも、リアリストの帯刀が一刀両断したところが心地よかったです。

また、帯刀とその母・直子が潤滑油となって、信長と信重(後の信忠)、信雄、信孝を始めとする織田家の仲良しぶりが描かれるのが微笑ましいですね。長島を始めとする戦いで係累が次々と討たれていっただけに。
それに帯刀と直子といえば、現代風の食事を可能な限り再現して、食している描写がたまらない。極めつけは織田信長の誕生会をしてしまったことでしょうか。
フルーツケーキもどきや果実酒には信長もご満悦です(笑)

さて、反撃が功を奏して勢力安定に繋がりましたが、本願寺を追い詰めるための公開論争が次巻で描かれるようです。
多くの戦国大名が苦労してきた武装宗教勢力。信長にとっては最難関の敵である本願寺をいかに料理していくかがみどころです。
それと、今のところは同盟を組んでいる武田との間が不穏な情勢。
史実と違い、東美濃には直子が赴くのがどう関係していくのかが気になります。

ボリュームある書き下ろしの章は小早川隆景でした。
織田家との完全対決前にして、北九州にて大友との激しい戦を繰り広げている時期。
尼子を下して勢いに乗る毛利と九州における最大勢力となりつつある大友。
織田家が西方へ伸長していけば、まずは毛利と対決するのは火を見るより明らか。
概ね史実に乗っ取った描写ながら、将来的に帯刀と隆景による智謀対決を予見させるような終わり方でした。