中山七里 『悪徳の輪舞曲』

悪徳の輪舞曲 (講談社文庫)

悪徳の輪舞曲 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

14歳で殺人を犯した悪辣弁護士・御子柴礼司を妹・梓が30年ぶりに訪れ、母・郁美の弁護を依頼する。郁美は、再婚した夫を自殺に見せかけて殺害した容疑で逮捕されたという。接見した御子柴に対し、郁美は容疑を否認。名を変え、過去を捨てた御子柴は、肉親とどう向き合うのか、そして母も殺人者なのか?

最初に郁美(御子柴礼司の実の母)が夫を自殺に見せかけて殺すシーンから始まります。
14歳当時の園部信一郎が事件を起こしてからおよそ30年後、娘(信一郎の妹・梓)も独立して老齢に入った郁美は再婚したのですが、1年後に夫の成沢が自殺。
しかし、警察は自殺に見せかけた殺人事件だとして郁美を逮捕しました。
状況証拠ばかりとはいえ、有罪判決が下される可能性は濃厚。さらに郁美がかつての「死体配達人」の母だということは知られており、誰も弁護を引き受けません。
そこで唯一の肉親である梓が御子柴礼司に強引に弁護を持ちかけてきました。
礼司としては、肉親の情ではなく、亡き夫が資産家であることから多額の成功報酬と引き換えに引き受けるのですが、久しぶりに会った母親に感情がかき乱されてしまうことに戸惑うのでした。

殺害などしていないと終始否定している郁美ですが、ロープに残っていた皮膚片からのDNA鑑定結果、偽造されたらしき遺書、それに鴨居に残された滑車の跡など、動かしがたい状況証拠。
さらに園部信一郎の事件の後に夫が自殺を起こしており、まったく状況は同じだということが当時捜査に加わっていた刑事の情報によって発覚しました。
冒頭のこともあって、読んでいる方としてはやはり郁美が殺人を犯したという印象が強いです。
それでも礼司は検察の主張を覆すべく、事件後の郁美と梓の足取りを追います。
明らかとなるのは自身が犯した罪により、加害者家族として迫害を受け続けた過去。
特に梓は結婚さえ破綻してしまったために礼司を恨むこと甚だしい様子ですね。できれば会話もしたくないが、他に母の弁護を引き受ける弁護士が見つからないために仕方なく最低限会いますが、それでも激しい憎悪が溢れんばかり。
それを馬耳東風と流す礼司もなかなかのもの。
彼にとっては家族でもなんでもないという意識ですが、それでも大事なことを隠している様子の郁美に苛立ちが募るようで。いつもの冷静さを欠いているのがわかりますね。

果たして郁美は冤罪なのか、それとも?
クライアントは非協力的、かつ有望な証拠が見つからない中で礼司は状況を覆すことができるのか?
これまでのシリーズと同様、読めば読むほど先が気になっていく展開はさすがです。
相手方の検事がかつて敗れた先輩の忠告を受けて、必要以上に礼司を警戒しつつ、しっかりと材料を揃えて、勝利が目の前だと確信したところで、例によって驚きの展開を迎えるんですよねぇ。

いやはや今回も面白かったです。
平凡で気の弱そうな郁美なのですが、最後に明かした真実で礼司が衝撃を受けたところ、さらに思わぬ人物に出くわして愚痴ったところも良かったです。