横山信義 『蒼洋の城塞5 マーシャル機動戦』

航空戦力を集中して守りを固めた連合艦隊は、再建された米海軍機動部隊の猛攻を辛くも凌いだ。だが、開戦以来敵機を圧倒していた零戦も新型戦闘機F6Fヘルキャットの登場によって苦戦を強いられるようになり、連合艦隊の戦力も次第に削られてゆく。一方、米国はその国力に物を言わせて艦隊を増強、マーシャル諸島メジュロ環礁に前進基地を建設し、要衝ラバウル、トラックをも脅かす。日本はこのまま米国の巨大な物量に押し切られてしまうのか!? その時、機動部隊の小沢長官が奇策を提案した――

いよいよ1944年が幕開け。巨大な工業力に物を言わせてエセックス級インディペンデンス級とちた空母が次々と戦力化された米軍の本格的反攻が始まります。
この頃になると史実で特攻機を迎え撃った「イントレピッド」の他、「レキシントン(Ⅱ)とか「サラトガ(Ⅱ)」といった沈没艦から受け継いだ艦名が登場しますね。
ギルバートやマーシャルといった前線の諸島を軽くたいらげた後は今までの太平洋戦争ものでおなじみメジュロ環礁を前線基地として整備していきます。
広大な航空基地や港湾設備はもとより、本格的に艦船を修理できる浮きドックまで呼び寄せ配置する光景は日本海軍の一大根拠地・トラック諸島に引けを取らない規模です。
さらに上陸戦のために海兵隊の部隊まで到着。作戦開始まで秒読み段階となりました。
既存の偵察機では未帰還になってしまっていたのを新鋭機・彩雲によってメジュロの状況を掴んだGFは迎撃のための計画を練るのですが、標的として考えられるのは果たしてラバウルなのか、トラックなのか絞り切れません。
当の合衆国としても、中部太平洋を島伝いに直接首都を狙いにいきたい海軍と戦略空軍、それに反して南太平洋に沿ってフィリピン攻略を優先させたい陸軍と意見が分かれていました。そこには幾分かマッカーサーの私情が入り込んでいましたが。
結局、日本軍としてはトラックとラバウル、どちらに来ても支援できる体制を作ります。その一方で機動部隊を率いる小沢治三郎には秘策を考えていました。
ついに米軍はラバウルの東方から来寇してきて・・・。


太平洋戦争ものでは枢軸国の攻勢が終わり、連合国の反攻が始まる1943年後半くらいから戦争の行方をどうするのかが問題です。
いくら前半が順調にいっても、アメリカの圧倒的な国力の前には日本はじり貧が待っているわけで。
今回も序盤は重苦しい雰囲気がありましたね。
F6Fヘルキャットを揃えてきた米海軍に対して、いまだに零戦の後継機が揃わない日本海軍。陸軍は3式戦・飛燕が出てきましたが数は少ないですし。
転換となったのは日本の機動部隊が正面切って迎え撃つのではなく、主力が引き払って手薄となったメジュロを襲ったところでしょう。
いかに航空基地が稼働して守備が固めてあっても、正規空母4隻分の空襲から守り切れるわけがなく。
浮きドックを含めて、せっかく造り上げた前線基地が壊滅してしまっては対日攻勢が数か月遅れる。
それが米軍司令官の焦りを呼び起こして、結果的に判断を誤ってしまったというわけですね。
これも今までの敗北で機を見るに敏な司令官*1を喪った結果だと。
そういうわけで、今回は司令官の判断および海戦における作戦において日本側に傾いていたと言えるでしょう。
海戦の主役たる戦艦同士の戦いでも「武蔵」に対して、旧式戦艦では相手にならなかったというのもありますが。
次回で新鋭空母を揃えての航空戦が入るのかなと思います。日本側は大鳳陸奥改装空母)が戦力化されますが、米軍はどれだけ増えているやら…?

*1:ハルゼーやスプルーアンス