トビー・エメリッヒ 『オーロラの彼方へ』

オーロラの彼方へ (竹書房文庫)

オーロラの彼方へ (竹書房文庫)

内容紹介
刑事ジョンが無線で交信した男はなんと30年前の世界にいる父だった。くしくもその日は消防士の父が殉職する前日。今なら未来を変えられる!だがそれはとんでもない事件の始まりだった。涙がとまらないSF感動作!

1969年、太陽フレアの活発化(太陽嵐)の影響により、ニューヨークでは異常気象によるオーロラが観測されていた。
消防士のニューヨーク市の消防士フランク・サリバンはタンクローリーの横転により発生した事故と火災によって下水道に閉じ込められた作業員を間一髪で救出。
怪我もなく帰宅したフランクは妻のジュリアと”リトル・チーフ”と呼んでいる息子のジョンと暖かなひと時を送ったのでした。
しかし、数日後にフランクは倉庫火災で中に閉じ込められた少女を救おうとして、脱出することができずに殉職してしまったのでした。

1999年、30年前と同じくニューヨークでオーロラが観測された夜。
結婚を約束していた恋人と別れて失意のまま帰宅した警察官のジャックでしたが、遊びに来ていた親友の息子が見つけた無線機に懐かしさを覚えて操作してみます。
偶然、誰かと交信することができたのですが、相手のコールサインは父が使っていたものと同じ。
相手が1969年のワールドシリーズの話をすることや、向こう側で”リトル・チーフ”と呼びかける声からして、もしかしたら生前の父かもしれないと思います。
30年後の息子であることを言っても信じてくれない相手に試合の結果を予言。
そして近々起こる倉庫火災で死ぬことを危惧したジャックは「自分の勘とは逆方向に行け」と伝えるのでした。

その後、猛火に包まれた火災現場でその言葉を思い出したフランクは賭けに出て見事脱出を果たします。
無線機および同じ机に焦がしたメッセージで生きていることを伝えられたのですが、フランクが生還したことで今度は母親ジュリアの運命も変わり、連続看護婦殺人事件の被害者となってしまうのです。
母を救うため、父と子による30年の時を隔てた苦闘が始まったのでした。


過去の出来事の一つを変えて現状を改善したと思ったら、歴史が変わって本来なかったはずの別の悲劇が起こってしまった。
未解決であった連続殺人犯の解決こそが警察官であるジャックの使命でもあるのですが、その鍵を握るのが過去の父であり、ハム無線機でしか連絡が取れないもどかしさが時代を感じさせますね。
卑劣な犯人との追走劇や直接対決。現在と過去とで手に汗を握るスリリングな展開と感動的な結末。
映画のノベライズということもあってか、きれいにまとめられている上に読みやすい作品でした。

映画のノベライズということもあってか、きれいにまとめられている上に読みやすい作品でした。同じタイムパラドックスを扱った映画としては『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が有名です。
本作では実際に過去に行くことはできないけれど、同じ無線機を使うことにより、父と子が30年の時を経て会話できたというのが特徴です。
その背景にはニューヨークでオーロラが観測されたことがきっかけかもしれないと思わせます。
さらに1969年は設立以来どん底の最下位が続いていたニューヨーク・メッツの奇跡的な快進撃により、ワールドシリーズの初優勝を成し遂げた年であり、地元で野球好きな父子にとっては、時間を超越したことの証明にも使われるなど重要な要素となっていて、野球愛が伝わってきます。