朱川湊人 『私の幽霊 ニーチェ女史の常識外事件簿』

私の幽霊 ニーチェ女史の常識外事件簿

私の幽霊 ニーチェ女史の常識外事件簿

内容(「BOOK」データベースより)

故郷に住む高校時代の同級生・聡美から「あなたの幽霊を見た」と告げられた“ニーチェ女史”こと雑誌編集者・日枝真樹子。帰郷して幽霊が出たという森の近くまで行くと、そこには驚きの光景が…。怪しき博物学者・栖大智と不思議すぎる女・曲地谷アコとともに、常識を超えた事件の謎に挑む。切なさ×不思議全開ミステリー!

出版社勤務の日枝は民俗学的に伝説豊富な東北(I県と表記)出身。
一時は結婚していたが、今は独り身で40歳間近。
学生時代の友人は苗字をもじってニーチェと呼ばれているそうな。
真面目で堅物の彼女は高校時代の自分自身の目撃談と不思議な博物学者・栖との出会いによって日常が変わっていく、そんなストーリーが綴られていきます。


第一話 私の幽霊
久しぶりに連絡が来た地元の友人から高校時代の”私”の幽霊を見たと聞き、普通ならば一笑に付すところを気になって帰省したニーチェ女史こと日枝真樹子。
早速現地に行ってみると、その場所は当時先輩との淡い交際をしていた自分が毎日のように立っていた場所であった。
しかし、季節は3月なのに夏服のセーラー服であり、近づいてみても後ろ姿しか見えない。
そこで彼女は古めかしいトランクを持つ背の高い男性に出会った。


第二話 きのう遊んだ子
ニーチェ女史が元嫂から聞いた子供の頃の話。
父親の転勤に従って引っ越した先のI県の田舎町で、彼女は記憶にない時間に知らない女の子と遊んでいたと言われて戸惑う。
親しくなった男の子の祖母が言うには山の子だというのだが、再会した時に人の記憶を操ることができると聞いて…。


第三話 テンビンガミ
担当だった作家が失踪したと母親から連絡を受けて住んでいたマンションのPCを調べたところ、「テンビンガミ」というキーワードと山奥の村があり、ニーチェ女史はそこへ赴くことに。
過疎の村では山にある神社の祭りが催されていたが、そこに訪れた者たちが戻ってこないというのであった。


第四話 無明浄
両手に色のついた紐を握って自殺する事件が続けざまに発生した。
しかし、自殺した人の年齢や場所、交友などには関連は無い。
それを探っていたニーチェ女史の先輩までも木乃伊取りが木乃伊になるかのように苦手だった海で入水自殺してしまう。
気になって仕方ない彼女は自殺の影に怪しい宗教などなかったか気になり、栖にも協力を願うことにした。


第五話 コロッケと人間豹
ニーチェ女史はすぐ近所で厳しく叱る父親と泣き叫ぶ子供の声で困り果てていた。
その親子は近所でも有名で、一度介入してみた人がいたが、取り付く島もなく、かえって脅かされる始末で手に負えないのだという。
そんな時に前日顔見知りになったなったアコが大量のコロッケを持って遊びに来た時にその声を聞くや否や、ベランダから飛び出してしまい…。



第六話 紫陽花獣
学生時代の友人の話で最近娘の様子がおかしいと聞いて、会ってみることにしたニーチェ女史。
よくある思春期の親離れに加えて、母親の性格にも問題があるように見えたが、あえて他人が口をはさむまでもないように思えた。むしろ娘が夜中に紫陽花が歩き出したという話が気になってしまい…。


ヒロインの“ニーチェ女史”こと雑誌編集者・日枝真樹子がちょっと不思議な出来事に遭遇し、最初は偶然の出会いであった博物学者・栖大智と共に探っていく短編集です。
ニーチェ女史が堅物という設定もあって、彼女中心の話はさほど面白味を感じることができませんでした。
表題作の種明かしには肩透かしの思いでした。幽霊の正体見たり枯れ尾花みたいな。
「きのう遊んだ子」は話が進んでいくにつれて明かされる事情とあいまって、最後まで目が離せなくて、感動的な結末も含め、この中で屈指の出来であると思います。
「無明浄」もいまいちわかりにくい話でしたね。自殺を誘引するほどの影響があったとは考えにくかったです。
ただ、このあたりから人間豹たる曲地谷アコが介入し始めて、次の「コロッケと人間豹」以降にストーリーに躍動感が出てきたように思えました。
栖大智は不思議現象の説明役にはなっていても、人柄からいっておとなしくて、あまり刺激にならなかったですからね。
感情的な人間というのは時に煩わしく感じるものですが、最後の二つのようにあくまでもまっすぐなアコの行動に胸を打たれました。