貴志祐介 『ミステリークロック』

ミステリークロック

ミステリークロック

内容紹介

犯人を白日のもとにさらすために――防犯探偵・榎本と犯人たちとの頭脳戦。

様々な種類の時計が時を刻む晩餐会。主催者の女流作家の怪死は、「完璧な事故」で終わるはずだった。そう、居あわせた榎本径が、異議をとなえなければ……。表題作ほか、斜め上を行くトリックに彩られた4つの事件。

「ゆるやかな殺人」
ヤクザの舎弟が一人事務所で留守番をしていた時に銃を口に向けて死亡した。
一見、自殺かと思われたものの、いろいろと不審な点が見つかる。
ただし、一番疑わしい兄貴分は外に出て車に乗るところであり、別の舎弟も近くにいたという完璧なアリバイ。
鍵開けを依頼された関係で居合わせた榎本径がどうやって殺人を行ったか推理する。


「鏡の国の殺人」
とある事情で厳重な警備の美術館に忍び込んだ榎本径であったが、美術館長が死亡していることを発見。
実は警備状況を調査するために依頼されたのだが、肝心の館長は誰に殺されたのか?
当時、美術館には鏡の国のアリスをモチーフにした展示の作業のために3人いたが、監視カメラをかいくぐって館長室に行くのは到底無理に思われた。


「ミステリークロック」
有名ミステリー作家の別荘に招かれたのは友人である編集者や甥、元夫の医者、それに榎本径と弁護士の青砥純子など。
彼女が執筆のために席を外した後、秘蔵の時計の鑑賞会が開かれたが、しばらくした後に様子を伺いに行った使用人によって彼女が死亡しているのが発見される。
どうやら飲んでいたコーヒーに毒物が混入されていたようだった。
ほとんどの者が一緒にいたこと、新作の実験のために彼女自身が試しに毒を入れてみたらしきことから、誤って飲んでしまった事故の可能性が高まるが…。


「コロッサスの鉤爪」
小笠原諸島沖にて海洋調査船から離れてゴムボートに乗り、夜釣りをしていた男性が転覆したボートから投げ出されて巨大イカやサメに襲われて死亡した。
一番近い船からは200m離れている上に各種センサーによって計測されているためにある種の密室状態。
傲岸不遜な彼には恨みを持つ人物が大勢いて、中でも一人のダイバーが有力候補となったが、当時300m下の海底にいて、31気圧の壁があった。




近年読んだ貴志祐介氏の著作は個人的に当たりはずれがあったのですが、少なくとも榎本径シリーズはハズレはないですね。
本作も非常に面白かったです。
短めの「ゆるやかな殺人」はパンチドランカーかつ禁酒中の元アル中という個人の性質に頼っている部分もあるだけに種明かしされれば、あっさりした印象はありました。
「鏡の国の殺人」と「ミステリークロック」ではトリックが複雑であり、一度読んだだけではなかなか理解しづらいほど手が込んでいるなぁという印象はありましたが、機械ばかりでなく人の心理を巧く利用しているあたりがミステリーとしても良質に思えました。
どっちも一般人にはとうてい真似できないほど装置が大掛かりで、映像映えしそうな内容でした。
「コロッサスの鉤爪」は特殊な機械無しには成立しない*1ために邪道とも言えるかもしれませんが、見晴らしの良い海上と深海というミステリらしからぬ舞台、犯行の背景がドラマチックに描かれていたのが良かったです。
なお、「ミステリークロック」の中のミステリ談義で著者自身の作品をディスっているのがちょっと笑えました。

*1:作中でも一度きりと明言されていた