楡周平 『国士』

国士

国士

内容(「BOOK」データベースより)

カレー専門店「イカリ屋」の老創業者・篠原悟は、加盟店と一致団結してチェーンを日本一に押し上げた。だが、人口減少社会を迎えた国内だけでは成長は見込めず、アメリカに打って出ることに。それを機に、篠原は自らは経営から身を引き、海外進出と、この国の将来を見据えた経営を、コンビニやハンバーガーチェーンを立て直した実績を持つプロ経営者・相葉譲に託したが…。

創業者である篠原悟が小さなカレー屋から始めて一代で国内一のチェーンにのしあがったカレー専門店「イカリ屋」。
その成功の秘訣はリストラなどで人生の再チャレンジに賭けたフランチャイズのオーナーと一丸になったこと。
さらなる成長のために飽和しつつある国内市場ではなく、アメリカ進出を目指すのですが、ノウハウもなく年齢的な限界を考えた篠原は外部から経営者を招いて会社を託すことにしました。
後を継いだ相葉譲はコンビニやハンバーガーチェーンを立て直した実績を持つ優れた経営者でありました。
かつての同期の伝手で大手の四葉商社と提携して、アメリカ進出計画を進めていきます。
しかし、資金捻出のためにも国内の既存チェーンで手っ取り早く利益を上げるために相葉が行ったのは篠原が積み上げてきたことを壊すこと。
例えば優良フランチャイジーのすぐそばに直営店を立てて、潰し吸収する。
会社の利益のためには社員やオーナー、客のことなど度外視した徹底的な策の数々。
それは相葉が今までやってきたことの繰り返しでありました。
相葉が社長に就任するのと同時にかつての部下を連れてきて要職に置いたため、もともと経営企画に携わっていた者たちはただの使い走りに追いやられてしまいます。
相葉の強引なやり方に憤懣を抱いたのは、そういった生え抜きの部下たちや実害を受けるフランチャイズのオーナーたち。
過去の経緯から、相葉のやり方では短期的に業績は上がるかもしれないが、多くのオーナーの人生を狂わせた上に反動が来て長期的に悪化が見えています。
なんとかしたいと現役を引退した篠原を頼ろうとするのですが…。


読み始めてから気づいたのですが、元商社マンが過疎の町の村おこしにチャレンジした『プラチナタウン』から数えて3作目に当たるようです。*1
今回は山崎町長は脇役なので、前作を知らなくても楽しめる内容ですね。
『プラチナタウン』は現代日本が抱える少子高齢化による過疎の問題を取り上げましたが、少子高齢化はビジネスの世界にも影響を与えていて、縮小する国内市場から海外市場に飛び出す企業を取り上げているわけですね。
そういう意味で、会社の経営においてビジネスパートナーや客も大事にしようとする篠原と、あくまでもプロ経営者として数字しか見ていない相葉との対照的な姿勢が浮き彫りになっているのが特徴です。
無論、企業経営としては相葉の方針が正解なのは、本作に登場する経営者も認めるところです。
しかしそれは弱者を切り捨てるやりかた。
日本の経営者の多くがコスト重視できた結果、産業の空洞化やワーキングプアを生んで、地方が痩せ細る結果となったということなのでしょう。
作中において、戦後の復興期においては、会社の繁栄を国の繁栄と考え、国民の生活を豊かにすることが会社の社会的使命と考える経営者「国士」が存在していた。とあります。
それが高度成長期やバブルを経た現代の日本では会社の社会的使命よりも業績や評判ばかり気にする経営者ばかりとなってしまった。
作中における代表的な人物が相葉ということなのでしょう。
しかし、これからも同じやりかたでは日本はじりじりと衰えていくのみ。
少しでも良くするには山崎や篠原のような経営者が必要だと言えるでしょう。

*1:2作目の『和喬』は未読