まふまふ 『陶都物語2』

陶都物語 二 ~赤き炎の中に~ (HJ NOVELS)

陶都物語 二 ~赤き炎の中に~ (HJ NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

現代の日本から幕末の日本・美濃国へと転生したオレ(草太)。前世から引き継いだ知識を活かし、この時代には存在しない「白磁」を作り出すことに成功した草太は、これを金の卵とすべく商都・名古屋へ向う。海千山千の大商人を相手に、見た目は子供・中身はおっさんの最初の野望は成るのか…。南へ西へ、奔走する不遇主人公はその途上で無宿人の少女を拾い上げるのだが…。幕末の著名人も続々登場する転生サクセスストーリー、待望の第2巻!

1巻が発売されたのが2017年でしたが、売れ行きが良くなかったのか*1、2巻が発売されることなく、原作の更新も止まってしまって非常に残念な思いを抱いていました。
それが同作者による『神統記(テオゴニア)』が書籍化されたこともあってか、2年越しに2巻が刊行されて、原作を読んでいた者として喜ばしいかぎりです。


さて、大地震の倒壊にも関わらず、奇跡的に無事だったボーンチャイナの皿をもって、陶磁器事業を復興を目指す草太。
何をするにもかかるのは元手(お金)であり、既存の美濃焼と同じ販売ルートを選ぶのを良しとせず、大都会である名古屋を目指します。
そこで口八丁手八丁を駆使して大商人から100両の融資をせしめたり、現代知識を有効活用して本格的な株式事業の発足まで漕ぎつけたまでは良かったものの、前途は多難です。
それはボーンチャイナたる原材料として骨灰の調達*2ももちろんながら、値打ちある売り物とするには絵付けが不可欠となるために優れた絵師を雇う必要があること。
そのためには文化の中心地である京まで足を運んで、直接スカウトすることを考えたのですが、まず美濃から京まで歩いて行くまでが6歳児の体には難題であったわけです。
そこで普段使う草鞋とは別に牛の皮を使ったサンダルを自作してみたものの、今度は靴擦れに悩まされるという場面があったり、現代知識も万能じゃありません。
ともかく、草太自身の地元とはいえ、約150年前のまったく様相の異なる風景の中を歩いて状況する描写がのどかで良いですね。草太の内心は今後のことを考えると焦る一方なのですが。
道中では死んだ夜鷹の子で乞食同然の孤児”お幸”に懐かれて、博打で商売道具をスってしまった富山の薬売りに執着されて、さらに大津で足止めしていた際には妙に頭の切れる役人に関心を持たれてしまい…そんな出会いがあって、思わぬ道連れを増やした末に二週間かかってようやく到着。
しかし、業界のしがらみやら地方を見下す風潮が強い中では絵師の引き抜きなど、いくら現代知識をもってしても、とっかかりさえ掴めないのでした。


かなりのボリュームの2巻ですが、それでもまだ陶磁器作りの準備段階、そのとっかかり程度と言えましょう。
ひとことで言えば、いくら現代知識があろうが、実際はチートなどできないものだということ。
6歳児という点が時にメリットになることもあるけど、基本的に足を使うしかないこの時代では移動にも苦労していますね。
身分制度など、草太が持つ現代の感覚と当時の常識がぶつかり合う様も面白い。当時に生きる人々のリアルが感じられます。
時に迂遠に思うこともあるけど、Web発の小説の中では時代考証を含めて、大変丁寧に書かれているように感じました。
何よりも歴史ものとしての醍醐味としては、史実の有名人物と出会い、物事が転がりだすように進んでいくところでしょう。
本作ではストーリーが進むほどに有名人物が続出しますが、ここで幕府のあの人と縁を結んだことが後にどういった化学変化を起こすのか期待が膨らみますね。
それと、京の中で人探しを手伝ってくれた老詩人は名前だけしか知りませんでしたが、主人公と同じ美濃出身だったのですね。
次の巻で人と材料が揃って、完成まで漕ぎつけそうですかね。非常に楽しみです。というか、3巻はあまり間を置かずに出して欲しいなぁ。

*1:昨今流行りの転生ものと歴史もののどっちつかずな感じだった

*2:肉食文化が無いので、寿命や怪我などで牛馬が死ぬタイミングを待つしかない