若竹七海 『依頼人は死んだ』

依頼人は死んだ (文春文庫)

依頼人は死んだ (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

念願の詩集を出版し順風満帆だった婚約者の突然の自殺に苦しむ相場みのり。健診を受けていないのに送られてきたガンの通知に当惑する佐藤まどか。決して手加減をしない女探偵・葉村晶に持つこまれる様々な事件の真相は、少し切なく、少しこわい。構成の妙、トリッキーなエンディングが鮮やかな連作短篇集。

女探偵・葉村晶による短編集。
以前、著者の作品を読んだ時にチョイ役で登場した記憶がありますが、主役となった作品を読むのは初めてです。


「濃紺の悪魔」
雑誌等に登場して、あれよあれよという間にセレブの仲間入りした松島詩織が命を狙われているとのことで護衛をすることになった葉村晶。短い期間でまるでアクション映画なみに次から次へと命を狙われる不自然さに詩織を問い詰める晶ですが…。
初っ端からホラーというか、後味が悪い内容できましたね。
探偵業復帰後の葉村晶が落ち着いているので、あまり感じないですが考えてみれば結構怖いです。
「詩人の死」
葉村晶の友人・相場みのりの夫が自殺をしたのだが、公務員をしながら詩人として出版した書籍の売れ行きも良く、死ぬ理由など考えられなかった。
依頼を受けて調べ始めた葉村晶は彼の父親が巨大建設会社のワンマン社長であることを知り…。
最後に対面した夫の父親がどことなく死の寸前の豊臣秀吉とダブりました。
順風満帆に見えた男の実情のやるせなさと言いますか…。
「たぶん、暑かったから」
オフィスで女性社員が男性社員を刺した事件を調べる葉村晶。
よくある男女の痴情のもつれと片づけたい会社ですが、客観的に見てもそんな仲であったとは思えず。固く口を閉ざす女性社員。彼女を気にする曰くありげな後輩女性。
葉村晶による考察、それに当の女性社員の独白にしても、そうくるか!と驚かされました。この中では一、二を争うほどに気に入った作品です。
「鉄格子の女」
葉村晶はある画家が住んでいた別荘を訪ねる。長方形をした家には不思議な構造とした中庭があって、画家はそこで絵を描いていた。
中でも絶望しきった表情の妻を描いた絵が目を引くのであった。
男女間の歪んだ愛憎劇をテーマにしているといっていいでしょうか。
当人がすでに死んでいて、淡々と語られているのであまり凄惨さは感じないですが。
アヴェ・マリア
住宅地の中にあった教会で老婆が死体で発見され,教会の聖母像フリーマーケットで売られていたという。
珍しく葉村晶ではなく、男性の同僚による視点。
果たして老婆は自殺なのか他殺なのか。他殺だとしたら殺した犯人は?
思わぬ展開とどんでん返しが楽しめた話。
依頼人は死んだ」
葉村晶と共通の友人を持つ佐藤まどかが自殺をした。
まどかの元には癌を告知する封書が市役所から届いていたのだが、普通はそんな連絡が郵便で来るはずがない。悪質な悪戯かと思って葉村晶が調べ始めた矢先の自殺であった。
表題作では特に癖のあるというか、変人とも言える人物が印象的でした。
そんな中で地味な女性による悪巧みを暴いたのが良かったです。
「女探偵の夏休み」
同居している友人・相場みのりに誘われ,海沿いの高台の由緒あるホテルで過ごす。
ホテルを気に入った常連たちが過ごしていた中、ある晩に女性の悲鳴が聞こえて行方不明になった者がいた…。
結末はなんとなくわかったけど、途中で時系列が混乱してわかりづらかったですね。
一見、高級ホテルに集まるセレブたちのように見えて、実情はお寒いかぎりであったというか…。
「わたしの調査に手加減はない」
大学までずっと一緒であったが、結婚後疎遠になり、2年前自殺した元親友が夢に出て来る。ついては彼女が自分に何か伝えたいことがあるのか調べて欲しいとのこと。
女性ならではの友情の裏に隠れた悪意。こういうのは男性には想像しにくいし書けないと思えますね
もっとも、出世競争などに置き換えれば、似たような陰湿な人間模様もあるだろうけど。
「都合のいい地獄」
アヴェ・マリア」事件の後日譚および「濃紺の悪魔」で登場した謎の男が葉村晶に迫る話。
アクション映画なみにジョットコースターのような展開の連続。
ラスボスは元同業者だったというのはいいんだけど、ラストはちょっと微妙だったかなぁ。


全体的にホラーとハードボイルドテイストが光る短編集でした。
自殺というのが鍵となっているでしょうか。
無愛想ながら頼まれたら嫌といえず、不承不承依頼を受ける探偵というのはいいですね。
一女性を主人公とした短編集でまったく男性と恋愛的な絡みというのがないのも珍しいかも。
かといって周りの男性に魅力がないわけじゃなくて、あくまでも良き友人という存在だけなんですよね。
けっこうエグい内容もありますが、主人公が感情を抑え気味なせいか、淡々とした描写が特徴的でした。
ある程度まで考察されるも、真相は闇の中というのもありますが、中には結局何がしたかったのかわかりづらいのも正直ありました。