有川浩 『ストーリー・セラー』

内容(「BOOK」データベースより)

小説家と、彼女を支える夫を襲ったあまりにも過酷な運命。極限の決断を求められた彼女は、今まで最高の読者でいてくれた夫のために、物語を紡ぎ続けた―。極上のラブ・ストーリー。「Story Seller」に発表された「Side:A」に、単行本のために書き下ろされた「Side:B」を加えた完全版。

大学の文芸部時代に代表を務める先輩に酷評されて以来、小説家になることは諦めたが、書くこと自体は諦められず、こっそり書き溜めていた小説がひょんなことで会社の同僚に見られてしまい・・・。
小説を読むことは大好きだけど書く才能にはまったく恵まれなかった男性と、書くことが諦めきれなかった女性との出会い。
男は女の小説に魅せられて、一番の読者になれたことを喜ぶだけでなく、その小説を世間に発表することを勧めます。
最初は二の足を踏んだ女ですが、試しに応募してみたところで見事大賞を受賞して、とんとん拍子に売れっ子作家への道を進むことになるのです。
書く才能に恵まれた彼女ですが、家事はあまり得意ではなく。
さらに執筆の関係で夜型生活の方が向いているために会社勤めの夫とは生活時間もずれてしまいます。
そこは妻の仕事第一に考える夫の配慮によって、いといろと甘えさせてもらいながら幸せな結婚生活を送っていました。
しかし、万事が順調とはいかず、売れっ子作家になったことへの嫌がらせがあったり、女の家族にも問題があって・・・。
精神的に追い詰められた彼女の脳は今まで例を見ない奇病に冒されていることがわかったのでした。


「Side:A」がアンソロジーのために書かれた作品で、単行本化に伴って対にするために書き下ろされたのが「Side:B」となります。
作家の妻と小説読みの夫という組み合わせは同じですが、Side:Aで奇病に罹って死に至るのが妻に対し、逆に夫が死病に罹るのがSide:Bとなりますね。
自分が大好きな本を書いた当の本人と恋に落ちて結婚する。
作家の妻としては夫が一番のファンであるだけでなく、生活的にも支えてくれる。
ある意味、読者と作家の理想的な関係といえるでしょうか。
amazonレビューによると、著者本人がモデルになっているらしいというのが頷けるくらい、二人が恋愛関係から結婚までにいたる過程が細やかな上に心情描写も巧くて、たちまち惹き込まれてしまいました。
そこまで心通わせられた夫妻ゆえにパートナーの逃れらない死に対して足掻くさまにも目が離せなくなるのです。
同じ本好きとしては男性の方に感情移入させられてしまうがために、最愛の人を喪うという運命が余計に辛く感じてしまいました。
そういう意味ではSide:Aが満点と言っていいほどに良かったため、Side:Bの方がやや見劣りしてしまった気がします。
Side:Bの方は初めにネタばらし的な会話が入っていたせいで現実感が乏しかったり、夫が完璧すぎるのも少し冷めてしまったのも要因かも。