北山結莉 『精霊幻想記13.対の紫水晶』

精霊幻想記 13.対の紫水晶 (HJ文庫)

精霊幻想記 13.対の紫水晶 (HJ文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

クリスティーナ王女の護衛を引き受けたことで、シャルル率いるベルトラム王国軍との戦闘を余儀なくされたリオ。そこで圧倒的な強さを発揮した彼は、シャルルを捕虜とすることに成功する。その後、無事ガルアーク王国へと到着したリオを待っていたのは、「なに、お前の実力を見込んでちと頼みがあってな」「と、仰いますと?」「俺と模擬戦をしてくれないか?」勇者坂田からの思いがけない模擬戦の申し入れで―!?

まずは前巻での戦いの事後処理の一環として、リオは敵の首謀者シャルルと王剣アルフレッドを厳重に拘束して捕虜としますが、勇者である瑠衣だけは自由の身とします。
クリスティーナ一行について脱出してきた浩太と瑠衣が話し合って、わだかまりを無くすことができたところで別れることになりました。
本作に登場する男性勇者はチートイケメンか性根が腐っているかという両極端なので、浩太みたいにごく普通に悩み苦しんで、乗り越えていこういう姿勢が大変好ましく思えますね。*1
瑠衣の協力もあって、集まっていた五千人の軍勢も退き、無事に国境を通過。
ガルアーク国側の関門で待っていたのは領地が近いリーゼロッテだけでなく、意外にもユグノー公爵や坂田弘明を始めとするレストラシオンの主要人物。
そしてそこにはフローラの姿もあり、久しぶりの姉妹再会となったのでした。
国境要塞の内部に場所を移し、捕虜尋問やら事情説明、そして集まったユグノー派の貴族への紹介といった出来事が続きます。
やはり話題となったのがクリスティーナ一行の危機をたった一人で解決したに等しいリオの活躍です。
なにしろ、勇者と王剣、それに五千人の軍勢を相手にして圧倒的な力を見せつけたのですから。


姉との再会を喜ぶフローラ。
リオだけでなく魔剣持ちと推察した3人(サラたち)を何とか味方に引き込みたいと考えるユグノー公爵。
その一方で坂田だけはリオがやたらと脚光を浴びている上にきれいどころが共にいて、自分の方には靡かないのが面白いわけがなく。
考えた挙句に接近戦では敵わないだろうが、神装を用いて距離を置き、一方的に攻撃すれば勝てるだろうという安易な思い込みで模擬試合を申し込むのでした。
勇者相手に対応に困るリオですが、実力が伴わないのに傲慢さを隠そうとしない坂田*2にうんざりしたクリスティーナが許可。ついでにプライドをへし折るくらいに叩いてくれとまで言うのでした。


今回に関しては、メインとなる二点(坂田との模擬試合と魔道船襲撃による王女拉致)はweb版でも書かれていた内容の手直しとなっています。
模擬試合にてプライドをへし折るという意味ではweb版より甘い仕上がりになったなと思いましたね。
お得意の八岐大蛇がしょぼかったなと思ったくらいで。
制御しきれてないだけでなく、正面から弓で迎え撃てるくらい速度が遅いのはやはり坂田の未熟さですかねぇ。
王女拉致に関してはフローラだけであったweb版と違い、クリスティーナも一緒なので展開が結構変わってきそう。*3
リオによるルシウスへの復讐の決着。そして王女姉妹の救出へと繋げていくのかと予想します。
ルシウスについてはあっさり殺害してしまったweb版と違い、重傷を負わせたものの命が助かっているので、相手がパワーアップして苦戦。激闘の果てに勝利っていう流れでしょうかね。


著者は会話を含めた描写が丁寧なのが特徴なので、情景が目に浮かぶ一方でテンポが悪く感じることは今までもよくありました。
今回は特に前半の会話(ほとんど女性陣がリオを持ち上げる内容)、特にお食事会へ続く流れが長々と続いたので正直飽きました。
数行の説明で終わるところを数ページかけて似たような会話を繰り返されてもねぇ。
今までも気になっていたのは、レイスの一味に振り回されてストーリーが進むところや、基本的に主人公が受け身でいるばかりでもやもやすることが多いところですかね。
今回web版では出番が激減したラティーファを外に連れ出して独自のストーリーを動かそうとしている点は評価したいかな。
まだ先ですが、復讐を終えた後、強すぎる主人公と多すぎて収拾がつかないように思えるヒロインたちの関係をどうするのかが気になります。

*1:雅人もそうだし、巻き込まれ組の方が不憫な中で頑張ってる

*2:本人の資質に加えて、手駒として御しやすいように甘やかしたユグノーの思惑もあった

*3:リオと繋がりが薄かったweb版のクリスティーナとは明らかに扱いが変わってる