恩田陸 『月の裏側』

月の裏側 (幻冬舎文庫)

月の裏側 (幻冬舎文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

九州の水郷都市・箭納倉。ここで三件の失踪事件が相次いだ。消えたのはいずれも掘割に面した日本家屋に住む老女だったが、不思議なことに、じきにひょっこり戻ってきたのだ、記憶を喪失したまま。まさか宇宙人による誘拐か、新興宗教による洗脳か、それとも?事件に興味を持った元大学教授・協一郎らは“人間もどき”の存在に気づく…。

面積の一割を占めるほどに水路が縦横無尽に走っている水郷都市の箭納倉。
ここで老女が失踪するという事件が続けざまに3件発生します。
彼女たちは一週間ほどでひょっこりと戻ってくるのですが、失踪していた時の記憶を無くしていました。
さらに言えば、3人に共通するのは自宅が掘割に面していたことや蒸し暑い夜に窓を開けていたこと。
退官して実家に戻った元大学教授・協一郎、それに里帰りした娘の藍子、藍子の幼馴染でかつて互いに淡い想いを抱いていた多聞。加えて、この街で起きた事件を取材し始めた新聞記者の高安。
彼らは失踪事件を探っている内に奇妙な出来事に出くわします。
飼い猫の白雨が咥えて拾ってきた精巧な指だったり、図書館で突然水が襲ってきたように思えたり。さらに複数の人間が揃ったように同じ反応を見せたことなど。
箭納倉の人々は水に関係するものに身体を盗まれている?
不意に浮かんだ疑問は徐々に確信へと変わっていくのでした。


水というのは身体の多くの成分となっていることから、人間にとって必要不可欠なものであります。
同時に人の営みにとって、恵みとなることもあれば、脅威ともなりうる。
ホラーにおいても、水(川とか海とか)を扱ったものは昔からありますし。
本作の舞台は水郷都市であり、街の中で家のすぐそばを水路が走っていて、脅威がすぐそこから来るかもしれないと思えば怖さは増してきますね。
長雨が続く様子とか、失踪があった家の印象とか、一つ一つの情景が目に浮かぶようで、不気味な雰囲気をすごく感じ取れました。
さらに人の身体を盗まれた上に見た目は変わらぬままに街で暮らしているのかもしれないという怖さ。
荒唐無稽でとうてい信じてもらえないような疑いを抱いた四人が徐々に真相に近づいていくさまはスティーブン・キングの小説を読んでいる時に近いものを感じました。
ただ、波乱に満ちた展開というより淡々としていて、起伏に乏しくて最後までだらだらと続いてゆくのが少し退屈に思えたのも確かです。