横山信義 『不屈の海5』

不屈の海5-ニューギニア沖海戦 (C★NOVELS)

不屈の海5-ニューギニア沖海戦 (C★NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

空母二隻を失った日本軍は、戦闘機「剣風」を量産し反撃の機会を窺う。だがその最中、米太平洋艦隊は戦略方針を転換。フィリピン奪回への布石として、ニューギニア島の陸軍第一八軍を猛攻する。一方、欧州ではドイツが米英の爆撃により弱体化。対日参戦に難色を示すイギリスは、アメリカとある密約を交わす。さらにイタリア・マルタ島上空には、英重爆撃機が出現し…。混沌が大陸を包む中、連合艦隊は壊滅寸前の第一八軍を救出するため、ニューギニアへの突入を決定。二倍以上の戦力差を前に、皇国の命運は―?そして柱島泊地にはあの巨艦の姿が!

昭和18年も後半に入り、トラック基地攻防では新鋭戦闘機「剣風」を配備。米軍もB17に加えてB-24リベレーターを投入して激しい攻防を繰り広げています。
海上では正規空母2隻という手痛い損害を被りながらも米軍を撃退。なんとか均衡を保っている状態と言えましょうか。
しかし、アメリカは今までの太平洋上の島嶼伝いではなく、陸地沿いにフィリピン奪回という目標を定めたのです。
そこには思うように戦果があがらない海軍ではなく、陸軍が主役を担うこと。
翌年11月の大統領選挙に合わせて国民の目にもわかりやすい成果をあげ、史上初の四選を狙うルーズベルトの思惑がありました。
東西を半分ずつ取り合っていたニューギニアでは、米軍が国力に物を言わせて10万という大軍と豊富な支援戦力を投入してきたため、守備していた兵力3万を擁する陸軍第18軍を圧倒。
特に過酷な環境によって戦闘だけでなく伝染病などに冒されて兵は斃れていき、支援物資を満載した輸送船、果ては軽巡駆逐艦によるネズミ輸送さえも執拗な妨害のためになかなか現地に届かないという状況で、日本軍の兵士たちは満足な食料や装備を持てずに撤退を繰り返していました。
そこでついに大本営ニューギニアを放棄。引いて守りを固めることにします。
第18軍の撤収のために海軍は可能な限りの戦力を回すのですが…。
一方でヨーロッパ戦線では逆襲に転じたイギリスそして米軍がドイツの継戦能力を削ごうと昼夜を問わずに大規模な空襲を繰り返していました。
しかし、ドイツ軍では史上初のジェット戦闘機Me262を投入するなどして抵抗。
連合国は豊富な軍事力だけでなく、イタリアとソ連への外交によっても枢軸側を追い詰めようとしていたのでした。


日本は「剣風」、ドイツはMe262を配備して懸命に対抗していますが、全体的に枢軸側が押されている印象を受けますね。
これでも日本はイギリスとは不戦条約を結び、イタリアが参戦せずにドイツの兵器製造を担い、ソ連とも国境で睨みあっているだけ史実よりましな状況です。あとMe262が爆撃機じゃなくて最初から防空戦闘機として運用されているのも地味に大きいでしょう。
さて、メインはニューギニアを巡る陸軍支援(日本は撤収、米軍は増援妨害)のために可能なかぎりの戦力を差し向けた海軍同士の戦いです。
ちょうど主力となる機動部隊がどちらも戦力回復の時期にあるため、旧式戦艦同士の戦いとなりました。
日本は比叡、霧島、榛名。米軍はペンシルバニアを始めとする開戦直後に失われた太平洋艦隊の生き残り3隻。
いささか舞台としてできすぎの感はありましたが、こうして旧式戦艦が同等の戦力で撃ち合うのは架空戦記ならではでしょう。
さらに戦艦同士の決戦では省略されがちな巡洋艦駆逐艦が見せ場を作ったのが良かったです。
米軍はこれまで敵地での敗戦が多く、熟練した兵士が多数失われたために航空機や軍艦というハードはいくらでも作られても、乗り込む人の方に未熟者が増えている弊害があちこちに見られます。
昔のシリーズではその点があまり考慮されなくて、負ければ負けるほどに強くなっていく理不尽さを感じたものですが、最近は考慮されているようです。
あと、当然のようにニューギニアでは撤退が決められて、しかも乗り込むのが軽巡駆逐艦など収容力が低いので武器も廃棄してます。
そのあたりは史実とは大違いですが、この世界ではさほど人命を軽んじてはいない方針になっているのだと脳内補完しておきました。


そして、いよいよ日本としては南方資源帯の鍵を握るフィリピンを巡っての決戦が次回以降に展開するのでしょう。
日本側としても、単に撤収したのではなく、なんらかの考えがあるように思えますね。
実は撤収の支援でいきなり大和が登場するかとちょっと期待しましたが、さすがにそれは無かった模様。
次回以降、フィリピンを巡る戦いで武蔵*1と共にサウスダコタ級やミズーリ級とやりあうんじゃないですかね。

*1:史実じゃレイテに辿り着く前に沈んだ因縁がある