ジャック・ケッチャム 『オンリー・チャイルド』

オンリー・チャイルド (扶桑社ミステリー)

オンリー・チャイルド (扶桑社ミステリー)

内容(「BOOK」データベースより)

アーサーとリディア。二人が出会わなければ、こんなことには…。1953年、アーサーはこの世に生を受けた。母親からの虐待を受けながら育ったアーサーは、狡猾な悪ガキへと成長していった。大人になってからも、アーサーは邪悪な感情を秘めたままだった。その後、内気な女性リディアと知り合い、彼女は不安を残しつつもアーサーと結婚。だが、彼は変態セックスを強要したり、しだいに凶暴な性格を表していく。抑圧された日常の中、彼女は一人息子ロバートに愛情を注ぐが、ロバートもまた奇妙な動作や習癖を見せ始める―。

レストラン経営者として成功している若手事業家のアーサー。
恵まれた容姿を持ちながらも最初の結婚に失敗して失意の最中であったリディア。
妹の結婚式がアーサーの経営するレストランで開かれたことにより、二人は出会って早々に惹かれていき、やがて結婚。息子・ロバートが生まれます。
熱に浮かれていた時期が過ぎて落ち着くと、日常の中でアーサーの振る舞いに不安を覚えることもあったリディアですが、男性の中ではよくあることだと不安を抑え込みます。
むしろ忙しい仕事の合間に息子を可愛がってくれる良き父親であることが嬉しかったのでした。
しかし、アーサーは徐々に本性を剥き出しにするようになり、嫌がるリディアを拘束してアナルセックスを強要するなど、暴力的な面を露わにしていくのでした。
一方、アーサーの実家があった地元では女性が手酷くレイプされた上に殺される事件が連続して発生。
共通しているのは人の近づかない森の中で、木の枝に両手を打ち付けて晒されて暴力を振るわれていたことやアナルも執拗に犯されていたことなど。
地元の警察官は行きずりの犯行ではなく、土地勘のある者ではないかと見ていました。


前から読もうと思っていたケッチャムの作品。
以前読んだ『隣の家の少女』や『オフシーズン』などよりは後味悪くはないだろうと軽く考えていたのが間違いでした。
テーマは虐待の連鎖。
中盤で父から息子への性暴力を知ったリディアが離婚後、ロバートの面会を含めた保護権に関する裁判の経過が描かれます。
これが真に迫るほどの迫力があり、リディアとロバートが救われるのかどうかハラハラさせられてしまうのです。*1
アメリカは裁判社会だと言いますが、それは雇った弁護士によって無理が通って道理が引っ込むこともありえること。
同時に弱者救済に対する司法の限界を思い知らされます。
また、連続婦女暴行殺人犯についてもアーサーが犯人のように思えますし、唯一の生存者の証言もアーサーらしき風体や車を裏付けています。
しかし、終盤でロバート救出のために乗り込んでいったリディアと撃ち合った末、アーサーは死に、はっきりしないまま終わってしまう。
ただ息子を救いたかっただけのリディアは正当防衛が認められずに殺人者として裁かれて刑務所に入り、息子と会うこともままならない。その絶望はいかほどであろうでしょうか。
これが映画であれば最後に悪が報いを受けるのでしょうが、リアリティが反映させられて辛い感情が残ってしまいます。
最後は獄中のリディアに対する支援の動き。それとアーサーの母ルースの元で(アーサーと同じように)育てられるロバート。
いずれも時間をかけて、まったく真逆の方向へと進んでいきそうなのが何とも言えませんね。

*1:この著者だから、すんなり正義が勝つ結末はないだろうなぁと思いつつ