今野敏『罪責』

内容紹介

平凡な一家を蹂躙するヤクザに、佐伯の怒りが爆発する!

元マル暴刑事・佐伯涼が環境犯罪に立ち向かう、『潜入捜査』シリーズ第4弾。
小学校に不法投棄された使い捨て注射器で、子供がB型肝炎に感染した。
廃棄物回収業者の責任を追及する教師の家族にヤクザの暴力が襲いかかる。
教師は命を奪われ、長男は自動車事故、高校生の長女は監禁、強姦――
激しい怒りに駆られた佐伯は、古代拳法を武器にヤクザに闘いを挑む!

佐伯涼は育ての親を殺されたことをきっかけに暴力団を激しく恨み、マル暴刑事となって大暴れ。
古武道を武器にヤクザを相手に大立ち回りして、有力な暴力団をいくつも潰してしまうほどでした。
さすがにやりすぎたために手帳と拳銃をはく奪されてしまい、環境犯罪研究所に出向という立場です。
そこは環境保護に反する犯罪を調査する機関ですが、所長や同僚を含めて謎めいた組織でした。
ある日、小学校のゴミ捨て場に多数の注射器が捨てられていて、放課後に遊んでいた児童の一人が針を指に刺してしまい、B型肝炎に感染してしまいます。
その後もしばしば投棄される注射器。
犯人は廃棄処分費を懐に入れるために不法投棄を行っていた廃棄業者でした。
子供の安全を守るために地域住民の協力のもと、業者への批判運動を率いた小学校の教師だったのですが・・・。
実は廃棄業者は暴力団の傘下にあり、ヤクザが出向いてきて本人への脅迫は無論のこと、動じないとみるや長男は交通事故、女子高生の長女は拉致監禁されて輪姦されてしまうのでした。
挙句の果てに教師はヤクザに刺されて死亡してしまいます。
規制をきっかけにしたフロンガス買占めである暴力団傘下企業を追っていたいた環境犯罪研究所では、無残に蹂躙された教師の家庭のことを知り、佐伯は怒りに燃えるのでした。


フロンガスに関する規制が始まったのが1988年の法律制定以降であり、潜入捜査シリーズ第四弾の『覇拳必殺鬼』というタイトルで刊行されたのが1993年。
不法投棄による環境汚染を取り上げた小説は21世紀に入ってからいくつか読みました*1が、当時本作のように環境問題に関する犯罪を取り上げるのはタイムリーというか先取りであったのかもしれません。
警察小説の印象の強い著者ですが、今回は法律の網をかいくぐる悪をその武力をもって成敗するヒーローということもあって、久しぶりのバイオレンス小説でした。
佐伯と武闘派ヤクザの代表格・牛塚との数度にわたる対決シーンが見もの。
佐伯が圧倒するかに見えて、時にピンチに陥ったりと息つかせぬくらいに緊迫したバトルの連続。
最初は一般家庭、次に建設現場、最後は倉庫内とその場その場の足場や障害物などシチュエーションに応じた細かい言及がされているのが臨場感ありました。
それと勧善懲悪だけでなく、被害に遭った母子のその後も書かれていたのも良かったです。
佐伯以外の研究所の人物とか、いくつか気になる部分は残りましたが、シリーズものということで、通して読めばもっと楽しめたのかもしれません。

*1:特に印象の強かった『夏の災厄』の刊行年を調べたら1995年だった