13期・62冊目 『災神』

災神

災神

内容(「BOOK」データベースより)

島根県出雲市は、ある一瞬を境に瓦礫の山となった。テレビに映し出される光景に誰もが息を呑むが、原因は不明のまま。局地的な天災か、北朝鮮のミサイルか、テロか!?先遣隊として送り込まれた陸上自衛官の新野は、風変わりな子供アキラと技術者の天音に出会う。彼女が勤務する巨大な研究施設で起きた“予測不能な事態”を知った新野は震撼する―。街が封鎖され通信手段がない中、唯一つながったツイッターには、最新のニュースや、救出を待つ人がいそうな場所などさまざまな情報が寄せられる。見知らぬ人々の祈りのもと、生存者たちは立ち上がるが…。ノンストップのパニックサスペンス。

島根県出雲市が謎の災害によって瓦礫だらけの地と化した。
当地に偵察隊として派遣された陸上自衛隊の兵士たち。偶然地下の酒場で飲み明かしてそのまま寝入っていたために難を逃れた女性研究者を軸にいったい何が起こったのかが徐々に明かされていく。
その災厄をもたらしたのは日本海メタンハイドレート採掘時に発見された巨大生物ミズチ。
研究のために捕獲してプールで眠らせておいたのが冷却装置の故障などによって、出雲に上陸して暴れまわったということなのでした。
ミズチは暴れた後に海に還ったと思われましたが、現地に到着した自衛隊の小隊は生存者には一切会うこともなく。
進むうちに大きさはあまりないが、びたん、びたん、という不快な音と共に灰色の名状しがたい奇妙な生物に襲われてしまいます。
それはヒルコと名付けられた、陽を避けて瓦礫の隙間から獲物(人)を捕食する化け物。
出雲はミズチとヒルコにより、ほとんどの市民が犠牲となって、まるで破壊し尽されたゴーストタウンのような有様となっていたのでした。


こういった災害時に気になるのは政府の対応ですが、採掘場所が竹島の南方ということで、デリケートな一帯。
さらに新種の生物が発見されたら、日本のエネルギー問題の解決の鍵となるメタンハイドレート採掘に大幅な影響が出ると予想されて、請け負っていた会社も依頼した政府としても公表せずに秘密裏に運ぼうとしていたこと。
それゆえにいざ大災害を巻き起こした当初から事実を伏せたまま対処しようとしたのでした。
それが破られたのは、現地入りした自衛隊員・新野によるツイッターでの投稿。
当局の思惑を超えて、インターネット上にはミズチが暴れた出雲の様子が断片的に漏れていき、情報を求める声や新野を支援する声、被災者を救おうとする声に満ちていくのでした。


amazonのレビューにて指摘されていたように映画『シン・ゴジラ』による影響が強いそうですが、私は見ていないのでコメントしようがありません。
ただ、2011年以降に発表されたパニック小説には東日本大震災が強い影響を与えているのは違いありませんね。
情報公開を渋る政府や企業、米軍の協力*1、その一方で様々な情報がインターネットに溢れるようになり、以前はマスコミ頼りだったのが国民一人一人が情報の発信者(玉石混交ではあるが)となったのが3.11以前とは明らかに変わりました。
その象徴的と言えるのが、嫌々ながらも仕事だからと現地に赴くことになった新野。
彼は二年間の採用期間が過ぎたら転職するつもりであり、兵士としての覚悟も国民を守るために命を張るような義務感など持っていない普通の青年。
それがいつの間にかツイッターの投稿が多数のフォロワーを呼び、ヒーローのように扱われていく。
後から本人が知り、「そんなたいそうな人間じゃない」とギャップに悩むところがリアルな感じがしましたね。


前半の不気味な状況からそれぞれの人物が出会い、何が起きているのかを把握。
日本政府に断りなく第七艦隊が沿岸からミズチに攻撃するあたりからストーリーが加速していきました。
緊迫感と迫力あるミズチやヒルコとの戦いや脱出の描写。
土壇場になって本腰を入れた総理やネットを通じて大勢の人々が新野に呼びかけるなど、現地以外でも盛り上がっていくのも良かったですね。
終盤は目が離せず夢中になってページをめくったものです。
最後はいかにもエンターテインメント風ではありますが、それはそれは良いのかもしれません。
現実だったら、新野はむしろこれからが大変だろうなぁと思いますね(笑)

*1:終盤には世界各国からの援助も出ていた