13期・60冊目 『解体諸因』

解体諸因 (講談社文庫)

解体諸因 (講談社文庫)

内容紹介

すべての謎は死体から始まった。6つの箱に分けられた男。7つの首が順繰りにすげ替えられた連続殺人。エレベーターで16秒間に解体されたOL。34個に切り刻まれた主婦。トリックのかぎりを尽くした9つのバラバラ殺人事件にニューヒーロー・匠千暁(たくみちあき)が挑む傑作短編集。新本格推理に大きな衝撃を与えた西澤ミステリー。

バラバラ殺人事件。
遺体を切り刻む行為自体がたいそう猟奇的であるだけに現実に発生すれば必ず報道されるほどの事件です。
ミステリーの分野でバラバラにする理由の大きな理由としては、自宅などの殺人現場から移動させるため。例えば被害者が男性で加害者が女性の場合など、そのままでは運べないし目立つから。
もう一つは証拠隠滅ですね。
それ以外に自己顕示欲を満たすためにバラバラにした上でばらまいたり、特定箇所だけの収集癖があるなど犯人の趣味のパターンもありますが、だいたいは合理的な理由が見られます。
では、上記にあげた以外に解体する理由があるとしたら?


「第一因 解体迅速」
被害者の死体は、柱をかかえ込むような格好で、両手足に玩具の手錠を嵌められ、解体されていた。さらに死体の顔面や腕には地面を引きずったような擦過傷があったという。
現場はいつ誰が訪れるかわからない住宅。殺人現場から一刻も早く去りたいであろうに、あえて手間をかけて解体した理由とは?
「第二因 解体信条」
34個のパーツに切り刻まれた主婦。
被害者は、自分の息子とかつて恋敵だった女性の娘との結婚に反対していたらしい。
特に細かく切り刻まれたパーツは指であることが鍵となる。
「第三因 解体昇降」
マンションにて8階でエレベーターに乗った女性が1階に着くまでのわずか16秒の間に、全裸のバラバラ死体となっていた。
どう考えても実行不可能と思われる事件だが、それを解く鍵は目撃者の行動にあった。
「第四因 解体譲渡」
一軒の書店で、101冊(種類は限られているので同じ雑誌を何冊も買っている)の成人雑誌を買っていった中年女性。
彼女はいったい何のためにそういった行動を取ったのかを推測する。
「第五因 解体守護」
ある家庭に泥棒が入ったのだが、不思議なことに被害は長男のお気に入りだったクマのぬいぐるみの腕が切り取られたこと。それに長女が憧れの先輩から貰ったハンカチが消え失せてしまったことくらい。そして数日後、クマのぬいぐるみにはハンカチで腕が結びつけられていた。
本作の中では唯一優しい結末の話。
「第六因 解体出途」
トラブルメーカーの叔母から自分の娘とその婚約者を別れさせてほしいと頼まれる主人公。
聞いている内に叔母自身が婚約者の青年とデキていることを聞かされてうんざりしてしまう。
無理やり渡されたメモ。仕方なく夜遅くに書かれた住所を訪れると、不審な人物がいくつもの箱を車に運び入れていた。
「第七因 解体肖像」
街中に貼られていた新築マンションの広告ポスターだが、なんとモデルの女の子の首の部分だけが切り取られるという悪戯が相次いだ。
大事を取って回収され、代わりにモデル無しのポスターに差し替えられた。
いったい誰がそんな悪戯をしたというのか?
「第八因 解体照応 推理劇 『スライド殺人事件』」
何の繋がりのもない女性ばかりが次々と殺される。
なぜか首から上だけがスライドしたかのように次の被害者の遺体のそばに置かれていた。いったい犯人の狙いは?
作中作における脚本の形式で描かれた内容。
コメディタッチであったり、いろいろと強引さが見られるのは作中作という位置づけのせいか。
「最終因 解体順路」
二つの死体の首が入れ替えられ、犯人が自殺した事件について、刑事に問われた主人公が考察する。
人数こそ違えど、『スライド殺人事件』を彷彿させる事件かと思いきや、登場人物の一人が書いたものであった。


最初は別々の独立した短編集に思えましたが、探偵役が続けて登場し、最後に繋がりが明らかにされます。
なぜ殺した*1かよりも、どういった理由があって解体されたり一部切られて現場から持ち去られたかを解明していく内容が特徴的です。
中にはぬいぐるみだったり写真が混じっていますが、よくぞここまで考えついたなぁと感嘆させられました。
ただグロいばかりでなく、心理的なトリックを使った内容があったのも良かったです。
ただ、最初にあげたように運搬や証拠隠滅に比べれば、やや強引かなと思わないでもないのもありましたが。
死んだ人間を解体するなんて、普通の人間ならば心理的な抵抗が大きいと思うんですよねぇ。

*1:殺人というより事故に近い死も含まれる