13期・45冊目 『青い星まで飛んでいけ』

青い星まで飛んでいけ (ハヤカワ文庫JA)

青い星まで飛んでいけ (ハヤカワ文庫JA)

内容紹介

それは人間の普遍的な願い。

彗星都市での生活に閉塞感を抱く少女と、緩衝林を守る不思議な少年の交流を描く「都市彗星のサエ」から、
“祈りの力で育つ”という触れ込みで流行した謎の植物をめぐる、彼と彼女のひと冬の物語「グラスハートが割れないように」、
人類から“未知の探求”という使命を与えられたAI宇宙船エクスの遙かな旅路を追う表題作まで、
様々な時代における未知なるものとの出逢いを綴った全6篇を収録

現代もの2編に宇宙もの(スペースコロニーだったり、劇的に変化した人類種の物語だったり)4編を収録。


「都市彗星のサエ」
氷を切り出して他惑星に送るという産業のためだけに人々が暮らし、生活が完結している都市彗星。
ひょんなことから森林地帯に入り込んでしまったサエは不思議な少年・ジョージィに出あう。
縛られた運命から逃げ出すため、密かに脱出計画を準備しているジョージィに共感したサエは手伝うから自分も一緒に連れていって欲しいと言う。
一作目は実に著者らしいボーイ・ミーツ・ガールな物語。
都市衛星の独特な生活ぶりや、鬱屈した生活から抜け出そうと足掻くジョージィとサエの想い。そして二人が苦労しながら脱出ポッドを作り上げていく過程がとても楽しいです。
その顛末もうまくまとめられていますね。


「グラスハートが割れないように」
持つ人の祈りで成長するというグラスハート。
中にはコケ類のような物が入っていて、実際に肌身離さず持っていると勝手に増殖していく。食べても体に無害であり、その人によって味が変わるというグラスハートはたちまち大流行するのだが・・・。
いわゆる似非科学的なものに夢中になってしまった彼女。
康介と時果の二人はお隣同士で幼馴染だが、時果の家では父が亡くなってフルタイムで働く母、重い病を持つ祖母という境遇からくる辛さの救いになっているのかと思うと、はっきりやめろと言えななくて、康介ならずとももどかしい思いになります。
本作ではあっけなく手放すことになったからいいけれど、宗教にせよ、似非科学にしろ、人の弱った部分にするりと入り込んできて、気が付いた時には手遅れになってしまう恐ろしさがありますね。


「静寂に満ちていく潮」
身体を合わせるのではなく、交感神経を直接結び付けることで、肌とは比較にならないほどの快楽が得られて、性に関係なく関係が結べるようになった未来。
ある場所に網を張っていた主人公はついに異星人とのファーストコンタクトを果たすが、どうも彼女?は活発的なタイプではなさそうで・・・。
著者の長編『天冥の標』を思い起こさせる超感覚的エロティシズムを感じさせる一遍。
本作のように人間がその体を自由に組み替えて宇宙で難なく暮らす時代に平和的なファーストコンタクトを経たら、見た目が大きく異なる異星人とも結ばれることがあるのだろうか。


「占職術師の希望」
見るだけで人の天職がわかるという主人公は占職術師として事務所を持って、今日もその人の天職を教えてあげている。
中には四つ天職を持つ人がいて、その中でも画家を選んだ女性と共にテレビ局を訪れてテロ未遂事件に遭遇する。
なぜならば、そこにはテロリストの天職を持つ男がいたからであった。
天職が見えるならばぜひとも見て欲しいなぁと思った反面、主人公自身は能力の代わりに天職が無いというのが悲しい。
それでも腐ることなく、主人公は苦労してテロリスト集団を捕まえる天職を持つ人物を探そうと奔走する。
シリーズものにしても良さそうだなと思った作品。


「守るべき肌」
肉体から離れて仮想世界で生きるようになった人類は怪我も病気も無縁となり、その時に応じて自由に自身の体さえ置き換えて遊び暮らしていた。
そんな時、突然現れた少女ツルギ。
彼女から、あるゲームに参加してほしいと依頼される。
ファンタジー世界で鎧竜に乗り、押し寄せるオーガなどの魔物から城を守るという。
しかし、不備のある設定やルールに参加者たちから不満が出始めるのだが、実は彼女は重大な秘密を抱えていて・・・。
その立場になってみないとわからないけど、仮想世界の住人になった人間たちの自由奔放さと切実に訴えるツルギの願いが対照的でした。
ストーリー自体はヒロインを救う少年といったラノベ的ではあるけれど、背景も含めて実に巧く練られていますね。


「青い星まで飛んでいけ」
地球外知的生命体の探査を目的に作られたAI人格が艦隊を率いて銀河系を回るという話。
数々のファーストコンタクトを経験するが、友好的な接触もあれば、時に騙し討ちされて撤退することもある。
そんな経験に嫌気がさすこともあるけど、自らに課せられた使命には抗えずに何万年もかけて旅を続けていく。
そんな彼の心情は哀切を帯びていて、妙に人間っぽいところに共感が湧きます。
そんな彼を観察しているのがオーバーロード(上帝)という存在。
オーバーロードと言えば、『幼年期の終り』を思い出すけど、絶対的上位存在であったそちらと違い、本作では親子みたいな関係に近いですかね。時に憎まれ口をたたくこともあるけど、実力はかけ離れているみたいな。
最後は身分違いの恋人との交際を反対された息子のような感じでした。