13期・37冊目 『目嚢』

目嚢-めぶくろ- (光文社文庫)

目嚢-めぶくろ- (光文社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

怪談作家の鹿角南は、従妹の嫁ぎ先、菊池家の古い土蔵で見つかった『目嚢』という古文書を預かる。そこに記された怪談に興味をひかれ、菊池家の歴史を調べようとする南だが、まるで誰かが邪魔するように、指が切れ、虫が湧き、一人暮らしの部屋に異変が起こり始める。迫りくる怪異は、止まることなく続いていく…。名手が描く、背筋が凍る傑作長編ホラー小説。

古来の怪談のみならず、実話系の怪奇話も大好きな女性作家の鹿角南は、従妹(元はその夫)から相談を受けます。
彼女が嫁いだ菊池家は江戸時代から続く旧家で敷地内に蔵があり、その中から古文書が発見されたため、その解読を依頼したいというのです。従妹自身は興味ないが夫の方が家系やルーツとった先祖の事績に興味があるらしい。
順番が飛んでバラバラだったその文書をなんとか揃えて読み進めてみると、菊池家に勤めていた者による手記であり、代々の内輪話を聞き取った逸話以外に素人ながらも絵付きで本人が実際に見た怪異譚が記載されていました。
どうやら今でいう霊能力者であったらしく、有名な『耳嚢』にちなんで『目嚢』と名付けられた文書であったのです。
不思議なことに『目嚢』を預かって読み始めた頃から、南の身は幻覚や悪夢などに悩まされ始め、原因不明の体調不良まで患うようになっていったのでした。


もともと怪奇作家として、今までさまざまな怪奇現象や怪奇体験にも積極的に関わって、それを飯の種にしてきた南は今回も興味をそそられて気軽な気持ちで読んでみたら、とんでもないシロモノだったという内容です。
『目嚢』に書かれていた子を殺した侍やそれを恨んだ女の話などは江戸時代の出来事であるのですが、菊池家に仇為す呪いは現代まで延々と続いていて、ほとんどの当主が早死にしていたし、今の跡取りである従妹の夫は幼い頃にはずみとはいえ父を死なせているという事実が怖いといえば怖いですね。
ただでさえ古い家というのは何か出そうな雰囲気があるし、埋立地であったことから水が絡む土地というのは良くないことが起きやすいというのは聞いたことがあります。、
長く続いた旧家に澱のように溜まった、何か恐ろしいモノの雰囲気は充分に伝わってきますね。
最後の方で、怪奇話を果物の西瓜と桃に例えるくだりがとても興味深いです。
西瓜は叩いて出来を調べますが、桃は触れただけでそこから腐っていってしまう。
怪奇もそれと同じで、今まで大丈夫であっても、たまたま桃のように触れた途端に祟りが移ればもう手の施しようがなくなることがある。
それこそが怪奇たる所以だと言えましょう。
その一方で南がやたら怖がる描写がしつこく繰り返されることにややうんざりしてしまいました。
当事者と客観的に見ている読者の違いとか、女性だけに虫が大の苦手だというのもあるでしょうが、怪奇作家の割には神経質すぎるような気がしました。