13期・35冊目 『猫背の虎 動乱始末』

内容紹介

地震後の江戸を救うべく、新米同心が走る!
安政2年10月2日、直下型大地震が江戸を襲った! 新米同心虎之助は町人たちの難題を、江戸中を駈けずり廻りながら解決していく。人情話、恋愛譚、謎解き等々が詰った極上のエンタメ長編時代小説。

立派な体格を誇る主人公・大田虎之助ですが、生来の気の弱さと強い母や姉の小言もあって、いつも猫背となりがち。
彼は急死した父の後を継いで町奉行の同心となったばかりでした。
そんな折に江戸の町を安政の大地震が襲いました。
震災直後の混乱した状況の中で発生する事件の解決のため、新米なりに東に西に奔走する日々を描いた作品です。
ちょうど黒船来航によって、幕閣が開国か拒絶かで揺れていた時期。
さらに追い打ちをかけるように日本列島を巨大地震が襲っていました。
江戸の町を舞台とした作品はさほど読んでいる方ではありませんが、こんな時期を舞台としたのは新鮮ですね。
発行が2012年であることから、前年の東日本大震災が背景にあって、地震と戦ってきた日本人の歴史を踏まえているのであろうと推測できます。
虎之助は決して頭が切れるというわけではないし、まだ若くて同心としても経験不足。
けれど人間観察に長けているし、いざという時の度胸もある。
父を補佐した親分の松五郎の助力も得て、信賞必罰よりも人に情をかける働きには「仏の大龍」の異名を取った父の跡取りに恥じないよう、少しずつ成長ぶりを見せていきます。
地震の混乱の中で起こるいくつもの事件。個々の思惑が絡み合いながら解決に向けて収束していく構成はさすがと言えましょう。
5章に分かれていますが、個人的に良かったのが新吉原の遊女の想いを描いた「第四章 返り花」ですね。
それと最後に亡き父の秘密に迫る「第五章 冬の虹」でしょうか。
全体を通して言えるのが、男よりも女の方が逆境に負けずに強く生きているな、ということです。
それは主人公の家族にも言えることで、姉二人はどちらも出戻りですが、上の姉の方はろくでもない亭主に愛想を尽かして実家に戻ってきてしまったらしい。
それに加えて実は母が父の知恵袋であったらしき描写。
主人公・大田虎之助にしても、破談した見合相手の姉*1と密かに想い合うようになるも、同心として忙しない日々を送って悶々としている間にふられてしまうのですが、彼女なりに考えた結果でした。
母でなくても、しゃきっとしろと言いたくなるような主人公始め、男性の方が影が薄い気がしていました。

*1:これも出戻り状態