13期・32冊目 『銀の島』

銀の島 (朝日文庫)

銀の島 (朝日文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

時は戦国―宣教師ザビエルと同時に日本に潜入した男がいた。ポルトガル国王の密命「石見銀山占領計画」を帯びた特任司令官バラッタは石見銀山を訪れ、占領作戦を展開させる。ザビエルの教えに疑念を抱き、破門された安次郎らは、バラッタの野望を砕くため倭寇の大海賊・王直に命がけの談判に及ぶが…迫りくるポルトガル大艦隊、迎え撃つは薩摩の安次郎と倭寇の大海賊・王直船団―戦国史を根底から覆す驚天動地の時代活劇巨篇。

日本史上でもっとも有名な外国人の一人とも言えるフランシスコ・ザビエル
長い十字架を胸に抱く絵が記憶に残っています。
当時海洋帝国としてスペインと世界を二分していたポルトガルの王ジョアン3世より依頼を受け、イエズス会によるアジアへのキリスト教布教のためにインドのゴアに到着。
そこで近辺の布教を行っていましたが、そこに訳あって日本を出て奴隷に落ちるなどして流れ着いていた安次郎らと出会ったことが彼の日本行きを決意させたのでした。
まずは安次郎の故郷である薩摩に辿り着いて、島津貴久より布教の許可を得ます。
しかし通訳である安次郎のキリスト教の知識不足によりデウス大日如来に言い換えたことから仏教の一派と誤解されたり、誤解を解くと今度は仏教僧侶と対立が始まったり。
果てはポルトガル船が来ないことから島津貴久の機嫌を損ねるなど苦労します。
ザビエルの望みは日本国王(ここでは天皇)に拝謁して、公的な布教許可を得ること。
しかし、世は戦国。都は長らくの戦乱で荒廃しきっており、行っても無駄だと言われるのでした。
一方、ポルトガルの軍人バラッタはシナに代わって豊富な銀を産出している日本の石見銀山の噂を聞き、艦隊を率いてこれを祖国のものにしようと画策。国王からの援助を引き出します。
ゴアを経由してマラッカに着いたバラッタはそこで一度戻っていたザビエルと出会い、商人と称して日本への偵察のために同行するのでした。


ヨーロッパ各国の宣教師が植民地支配の尖兵であったというのはよく知られています。
布教のためには言葉の通じないどんな野蛮な地であっても率先して入り込んでいき、貧しい民衆に施し、信仰を得てゆく。
領主には貿易という甘い蜜を吸わせて味方につけて徐々に足場を作っていき、最終的には武力を用いて確固たる拠点を築く。
そうしてインドから東南アジアまで進出していきました。
どんな宗教といえども、権力を持つことで腐敗していくもの。
世俗に塗れた宣教師ならともかく、純粋に篤い信仰心を持つ者であったならば?
「ザビエルは嘘つきである」という衝撃の告白で始まる安次郎の手記は当時の日本人から見たキリスト教宣教師の矛盾を衝いているのかなと思いました。
本作の中で登場するザビエルは一般的な印象と変わりありません。どこまでも清貧で己を厳しく律する姿は宣教師の理想そのもの。
しかし、そんなザビエルを悩ます存在がバラッタ。
早いうちに日本語が上達して日本の武将たちにも取り入るのが上手。
だけど、その本心は自らの野望を満たすために陰でいろいろと画策しているのでした。


史実を巧妙に取り入れて、うまく物語を作っているなぁというのが率直な感想です。
伊達政宗がスペインに助力を願ったという俗説があるように、銀を巡って西洋列強が本格的に軍を派遣してきてもおかしくはないわけで、バラッタがなかなか味のある悪役でありました。
ザビエルが出会った日本人ヤジロウ(もしくはアンジロウ)を島津家に仕えた武士としてそのバックグラウンドや行動を大胆に描き、海賊の頭目・王直も絡ませて、最後は石見銀山を巡る一大海戦を迎えました。
そこがちょっとあっさりしすぎているようにも思えたので、肝心の石見銀山を巡る陸戦があっても良かったかなとは思いましたが。