13期・31冊目 『かがみの孤城』

かがみの孤城

かがみの孤城

内容紹介

あなたを、助けたい。

学校での居場所をなくし、閉じこもっていたこころの目の前で、ある日突然部屋の鏡が光り始めた。輝く鏡をくぐり抜けた先にあったのは、城のような不思議な建物。そこにはちょうどこころと似た境遇の7人が集められていた――
なぜこの7人が、なぜこの場所に。すべてが明らかになるとき、驚きとともに大きな感動に包まれる。
生きづらさを感じているすべての人に贈る物語。一気読み必至の著者最高傑作。

安西こころはちょっと引っ込み思案なところがある普通の少女。
入学した中学校で女子の中心的存在となった真田美織が小学生時代にこころと仲良くしていた男子と付き合うことになり、彼がこころのことが好きだったと漏らしたことがきっかけで陰湿なイジメが始まってしまいます。
その男子だけでなく、せっかく仲良くなれた近所の東条萌にまで美織の手が伸びてこころをクラスで孤立させていく。しまいには集団で家にまで押し寄せてきて、こころを容赦なく責めたてたのです。
担任さえも大人受けの良い美織の言葉を信じて、こころのことはただの問題児扱い。
いつしか、こころは朝になるとお腹が痛くなり、不登校となってしまったのでした。
そんなある日、母親も仕事に行って独りぼっちで過ごしていたこころの部屋の鏡が突然光って、触れると西洋のお城のような場所に誘い込まれてしまいました。
そこで出会った狼の面を被った少女”オオカミさま”によって連れてこられたのはこころを含めた七人の少年少女。
七人は九時から五時まで鏡を通してこのお城まで行き来することができる。期間は三月三十日まで。
城の中には鍵が隠されていて、見つけた者には一つ願いを叶えることができるという。
七人の少年少女は見た目も性格もバラバラでしたが、日中にお城に来れるということはこころと同じように事情があって学校に行っていない者たちということでした。


学校に行くことができなくなり、家に閉じ籠るも外の目を気にしてしまう。休みの日でも同級生に会ってしまうことを恐れて外出するのも難しい。
母親としても、できれば学校に行ってほしいが無理強いはできずに、似たような境遇の子供が集まるフリースクールを紹介するのですが・・・。
序盤はこころの閉塞した生活ぶりが非常に重苦しいです。
もともとおとなしい子であったと思えるこころの負った傷は大きかったことが伺えます。
一方で城に集まった七人は最初から年齢差に関係なく話すようになりますが、なかなか個性的な面々です。
中三のアキとスバルはこころから見るとやはりおとなっぽさが感じられ、中二のマサムネとフウカはどこかとっつきにくさがあります。同学年のウレシノは太めで気弱な印象。
こころと同じ中一のリオンはまごうことなきイケメンだけど親しみも感じさせる*1
ゲーム開発者の友人がいるというマサムネが持ち込んだゲームをやらせてもらったり、女の子同士でもプレゼント交換したりとこころも少しずつ馴染んでいきます。
ウレシノが女子を順番に好きになっていった末に全滅したり、いきなりアキとスバルが髪を染めたりなどとなにかと賑やか。
いつの間にか鍵探しの方はそっちのけ(実際はこっそり探していたりした)で、それぞれの抱える現実が反映した七人の人間模様に目が離せなくなります。


あるきっかけで七人とも同じ中学に通っていることがわかるのですが、マンモス校ということもあって面識はありません。
それぞれ不登校の状況をなんとかしようとしていて、転校を考えたりフリースクールに行っていたりします。
共通して登場するのがフリースクールの喜多嶋先生。
こころのような子供に真剣に向き合い、我が事のように怒ってくれたり、学校に対して強く申し入れたりと、本当の味方とも言えます。
この人物がきっと重要な鍵を握るのではないかと思っていて、それはある意味合っていましたね。


三学期に入って、勇気を出して学校に行こうと決意したマサムネが仲間たちにお願いします。一月十日に一日だけでいいから学校に来て欲しいと。
それに賛同したこころたちも頑張って登校(こころの場合は保健室へ)するのですが、会えなかったばかりでなく、先生に聞いてもマサムネやウレシノという生徒はいないと。
こころだけでなく、登校した誰もが仲間に会えなかった模様。
後日城にやってきたマサムネが考えたところ、パラレルワールドなのではないかと言います。
それぞれ同じ町に住んでいる(リオン除く)のに時々話が噛み合わないのはそのせいではないかと言うわけです。
ということは外の世界では会うことは叶わないのか?
しかしオオカミさまが言うには「決して会えないわけがない」と。
そのあたりの謎は最後の方になって明かされるのですが、実はいくつもヒントが出ていたのですね。
例えばマサムネの持ち込んだゲーム機*2とか、喜多嶋先生の印象とか、クラス数の違いとか。
逆にあえて会話で触れないでいた部分もあるのだろうなと思った部分もありましたけどね。*3
そして終盤は怒涛の展開。
こころにとっては美織のために仲違いしたままだった東条萌と仲直りできた上に鍵探しのヒントが見つかったと思えば、5時までに帰らないいけないルールを一人が破って、こころ以外の6人がオオカミに食べられてしまう。
彼らを救うためにこころは半壊した鏡を通ってすっかり様変わりにした城の中で鍵探し。そこで彼らの記憶に触れることになり・・・。


それまで抱えていた疑問がすっきり解消できた上に感動的な結末であり、非常に良い読後感を得られましたね。絵本をモチーフとするねたばらしにも感嘆させられました。
最後の重要な事柄なので詳しくは書けないのですが、喜多嶋先生の正体はまだしも、オオカミさまの正体にはなるほど!と思わされました。
願わくば、七人それぞれのエピローグが読みたいところでしたが、こころと彼が出会えただけでも良しとしなきゃいけませんかね。

*1:彼だけが不登校ではなく、サッカー留学で一人ハワイの寄宿舎に住んでいることが明かされる

*2:苦労して古いブラウン管のテレビを持ち込んだというセリフを普通に読んだけど、最新型のテレビだったらまた反応が違っていたんだな

*3:中学生ならば敏感であろう芸能人や世間の出来事など