13期・25冊目 『ようこそ、わが家へ』

内容(「BOOK」データベースより)

真面目なだけが取り柄の会社員・倉田太一は、ある夏の日、駅のホームで割り込み男を注意した。すると、その日から倉田家に対する嫌がらせが相次ぐようになる。花壇は踏み荒らされ、郵便ポストには瀕死のネコが投げ込まれた。さらに、車は傷つけられ、部屋からは盗聴器まで見つかった。執拗に続く攻撃から穏やかな日常を取り戻すべく、一家はストーカーとの対決を決意する。一方、出向先のナカノ電子部品でも、倉田は営業部長に不正の疑惑を抱いたことから窮地へと追い込まれていく。直木賞作家が“身近に潜む恐怖”を描く文庫オリジナル長編。

生来の真面目で気弱、トラブルは避けて堅実に生きてきた倉田太一(青葉銀行から中堅企業のナカノ電子部品に出向している。役職は総務部長)は会社帰りで混雑していた駅のホームにて、横から割り込もうとしていた男を注意し、彼に押しのけられた若い女性を守るためにも横入りを防ぎました。
トラブルはそれで終わらず、電車を降りてバスに乗り換えても男はずっと付いてきており、先ほどの仕返しかと疑念に思って走って逃げたのでした。
しかし、翌朝から妻が丹念に育てていた花壇が踏み荒らされ、郵便ポストには瀕死のネコが投げ込まれるといった嫌がらせが始まります。
さらに車が酷く傷つけられしまった上に生活費から5万円だけなくなっていたことから、いつの間にか不法侵入されていたことを知ります。
娘が別の夜に家を見ていた男の姿を目撃したことから、家族総出で男との闘いが始まりまったのでした。
警察への届け出はもちろんのこと、監視カメラの設置、そして家族の会話が漏れているのではないかと疑って探ってみたところ、盗聴器まで発見。
その中には、なぜか妻がクラフト教室で作った作品にまで仕掛けられていて愕然するのでした。
一方で太一の勤めるナカノ電子部品でも、棚卸した際に二千万円相当のドリル部品の在庫が行方不明になっていました。
なぜかそれが翌日に見つかったのですが、よくよく調べて見ればそれは数だけ合わせたゴミに等しい古い部品。責任者である営業部長の人を食った態度や過去に出張費を誤魔化して着服していることから、不審を抱き、部下と共に密かに調査を始めたのでした。


序盤にて、普段は気弱な主人公がほんの少しの勇気を出したものの、逆恨みを買ってしまい、嫌がらせが始まるのはとても他人事とは言えなくて、すんなり物語に入り込めました。
同じ電車内に乗り合わせた見も知らぬ同士のトラブル。
電車通勤していればよくある話ですが、一方的にこちらの情報を知られて、悪意を向けられたら、防ぎようがありません。
大学生の息子・健太と高校生の娘・七菜が「このまま悪い奴に黙ってやられるわけにはいかない」とばかりに進んで犯人捜しに協力するようになったのが救いでしょうか。
物語は家に対して嫌がらせをしてくる犯人像をなんとか掴もうと苦労する一方で、会社での不審な出来事に取り組む様子と分かれて進行していきます。
銀行から出向してきた総務部長という立場ながら、会社のために献身するも社長からも外様的な扱いを受けて、居心地の悪さを感じていた主人公。
ですが不正を許さず、最後には銀行員の立場として会社のために勇気を奮いました。
やはり、会社における人間模様を掘り下げながら因果応報を織り交ぜた展開の描写は巧みで読ませるものがありますね。
その分、家の方はドラマティックではあっても、いささかご都合主義を感じてしまいましたね。ゲームとか名無しといった単語に拘って繰り返し強調するのは余計ではなかったかと。
結局、名も知れぬ他人ではあっても、そこにある動機は極めて人間的な感情であったし、ナカノ電子部品の社内においても納得がいく結末として結ばれたのは良かったです。