13期・24冊目 『斎藤家の核弾頭』

斎藤家の核弾頭 (朝日文庫)

斎藤家の核弾頭 (朝日文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

われわれは、日本に宣戦布告する!!そもそも「特A級市民」というエリート中のエリートだった私が、なぜ政府より、理不尽な転居命令を受け続けなければならないんだ!もうこうなったら…。ついに爆発してしまった斎藤総一郎、心の叫び。2075年、「国家主義カースト制度」により、高度に管理された、ニッポン。住民たちと核爆弾を作りあげ、祖国と対決する斎藤家の明日は、何処に。

東京のど真ん中に江戸時代より代々住み続けている斎藤家。
高層ビルに囲まれていながらも、頑固に立ち退くことを拒み、二階建ての小さな戸建て住宅の中に四世代10人以上の家族が暮らしていました。
当主・総一郎はつい最近まで「特A級市民」というエリート中のエリート区分に属して、裁判官の職にありましたが、徹底した機械化の波は裁判システムにも波及したためにメール一本で解雇されてしまったのでした。*1
20世紀から21世紀にかけての首都圏震災、飢餓、争乱といった大規模な社会的混乱の末にできあがったのが徹底した国家主義と国民カースト制度
特A級からE級、さらに例外的なM,N級といった区分で分けられた国民は子供を持つことさえ厳重に管理されていました。
特A級である総一郎は早いリタイアの後は子を殖やし家を守ることが己の使命と頑なに信じていて、長男の敬を筆頭にすでに4人。5人目が妻のお腹の中にいました。
当の妻は舅・姑・大姑と同居の狭苦しい家の中、まだ若いのにひたすら出産と育児に追われる毎日に絶望を抱いていましたが、総一郎がそれに気づくことはなく・・・。
一等地に居座る斎藤家をどうにかして立ち退かせたい国ですが、法律の専門家である総一郎もさるもので、なかなか付け込む隙を見せません。
しかし、親戚一同が二階に集まった際に老朽化した柱は重さに耐えかねて床ごと落ちてしまい、狭い家は家族が並んで寝ることさえ大変になってしまいました。
重傷者が出たことから、斎藤家の皆がしばらく病院などへ出ていた隙にいきなり国から派遣されてきた業者の手によって家と土地は奪われて、東京湾上に作られたニュータウンに強制的に引っ越しさせられてしまったのでした。
広々とした住まいに緑溢れる環境ということもあって、結果的に良いところに住むことができたと思ったのもつかの間、地下にレアメタル資源が発見されたことにより、またしても引っ越しを通告されてしまいます。しかし、その引っ越し先として提示された土地というのがとんでもない場所なのでした・・・。


ディストピア小説だと感じるのは国家から不要国民扱いされる斎藤家(一部除く)視点だからですかね。
総一郎が仕事を失うことになった裁判の徹底した機械化と迅速化(おそらく費用も抑えられている)については、大局的に見れば国民の大勢にとっては良いことでしょうし。
それにしても、昭和の家父長制度の嫌なところばかり目立つ総一郎の言動にはさすがに同じ男性としてももやもやが溜まっていく一方でした。
そこはギャグとして笑い飛ばせば良かったのでしょうが、ニュータウン残留市民のリーダー役として地味に活躍も見せるので、ヒーローなのかアンチヒーローなのか立ち位置が中途半端だった気がしました。
終盤は妻や娘の小夜子にやりこめられる場面が増えましたが、もっと早い段階でとっちめるか、覚醒させた方が良かったのではないかと思いましたね。
ニュータウンからの転居命令に従わない(中には従えなかった)市民に対してはなりふり構わない手段が取られていきますが、マスコミに訴えるという手段が最初から無いのが気にかかりました。
もしかして第四の権力と言われたマスコミは第五の権力となったコンピュータによって、完全に管理されている未来なんですかねぇ。
不要市民に対する容赦ない国の圧力に対して、徹底抗戦を示した主人公たちですが、その切り札はひょんなことがら入手した核燃料から作り上げた原子爆弾
破滅の引き金を引いたところで、花火には笑いました。それに建物破壊に対する損害賠償の通知が来たことも。
ラストは自然な流れとなった気がします。荒天の時は大変そうですが、このまま漂流家族となるのがいいかもしれない。

*1:実際は次の職に就く猶予があったらしいけど、最後まで職にしがみついていた総一郎にとっては、まさしくメール一本で解雇されたようなもの