13期・23冊目 『朝が来る』

朝が来る

朝が来る

内容(「BOOK」データベースより)

「子どもを、返してほしいんです」親子三人で穏やかに暮らす栗原家に、ある朝かかってきた一本の電話。電話口の女が口にした「片倉ひかり」は、だが、確かに息子の産みの母の名だった…。子を産めなかった者、子を手放さなければならなかった者、両者の葛藤と人生を丹念に描いた、感動長篇。

四部構成となっていて、まずは仲睦まじい栗原親子の様子が描かれます。
子供同士のトラブルによって、ママ友に振り回されそうになりながらも息子を信用する姿勢に胸を打たれます。
そこに「片倉ひかり」を名乗る女から「養子であることを周囲にばらされたくなければ、お金を用意しろ」という脅迫の電話があり、直接会って話をすることにします。
「片倉ひかり」は朝斗を生んだ実の母ですが、養子をネタにお金を要求するような人物だとは思えないし、息子を育てて6年を過ごしてきた夫妻は揺るぐことはありません。いったい彼女は何者なのか?


第二部では過去に戻って、同じ会社の同い年同士で結婚して、35歳までは二人で仲良くやってきた栗原清和・佐都子のなれそめ。実親の心無い言葉がきっかけとなって子供を作ることを目指すのが本人にとっては皮肉だったかもしれません。
しかし自然妊娠できぬまま月日は流れて、嫌がる夫を説得して精子検査を受けてもらったところ、無精子症との診断。
長く辛い不妊治療を経ても状況が好転することなく40歳近くになって、特別養子支援を行っている団体「ベビーバトン」をテレビで知り、申し込んでみたのでした。
一年の経たずに連絡があり、朝斗を受け取った瞬間、夫妻にとっての長い長いトンネルを抜けて「朝が来た」のだと実感しました。


第三部がごく普通の中学生・片倉ひかりの話。
女子に人気ある同級生・巧から告白されて付き合い始めたひかりは堅物教師の両親に反発するかのように交際にのめりこんでいきます。
反抗期特有の親の言うこと為すことすべてが気にくわなくて、あえて大人が禁じることをするのが格好いいと感じる気持ちはわからなくはないですが、その心情は危うさが見え隠れします。
まだ初潮が来ていなかったこともあって、避妊などまったく考えずに最後まで突っ走った結果が妊娠という事態を招くのでした。
病院でわかった時には中絶できる時期をたった一週間過ぎてしまったために出産を選ぶしかなく、病気による長期入院という名目で広島にある「ベビーバトン」の寮に入ることなったのでした。
そこで出会った、自身と同様に望まぬ妊娠をした女性たち。年上ばかりで風俗で働く子もいましたが、なぜかひかりにとっては家にいるよりも過ごしやすい場所でした。
出産した翌日に神奈川から駆け付けた栗原夫妻に直接会って赤ん坊を託したひかり。「ごめんなさい。よろしくお願いします」と。
そこで「朝が来た」栗原夫妻と違って、ひかりにとってはもう以前のような日常には戻れなくなっていたことが不幸と転落の始まり。
学校で、家庭で、ボタンの掛け違いの一つ一つが悪意となって彼女を追いこんでいく。
巧との別れを経て親の冷たい視線、親子喧嘩を繰り返して居場所を無くしてついに家出、勝手に名前を使われて借金取りに迫られ夜逃げ、安易に職場の金に手を出して・・・。
彼女自身はただ必死に生きようとしていたのに、肝心な時に恩を仇で返すような最悪な選択をしてしまってるのが痛々しくてみてられないほどでした。
一昔前のケータイ小説を彷彿させる、絵にかいたような転落。
住み込みで働いていた時のホテルの支配人が言ったように、どこかで頼りになる誰かに相談していれば最悪は免れたかもしれないのに。


そうして最初のシーンに戻ってひかりが栗原夫妻に対面するも、夫妻が朝斗に言い聞かせていた「広島のお母ちゃん」のイメージとはかけ離れてしまったことに気づいて、本当のことを言い出せずに逃げ出してしまう。
もはやどこにも行く場所がなく、命を投げ出そうとしたところで栗原佐都子・朝斗と出会って終幕を迎えました。
栗原夫妻のエピソードがうまく収まったところで、片倉ひかりのパートが重すぎましたね。そこを非現実的だとみるか、それとも一歩間違えれば誰にでも訪れることなのかもしれないと受け取るかですね。
これって、物語としては感動的な結末を迎えたのかもしれないけど、どうしてもその後が気になってしまいます。ひかりの抱える問題は解決していないだけに。
少なくとも彼女にとっては、朝斗と出会ったことで人生をやり直す契機になったのだと良い方に思うしかないです。