13期・22冊目 『ついてくるもの』

内容紹介

高校二年生の私が、学校の帰り道にちらっと目にした、えも言われぬほど鮮やかな朱色。それは廃屋の裏庭に飾られたお雛様だった。どれも同じ箇所が傷付けられていた人形たちの中で、一体だけ無傷だったお姫様を助けなければと思った私は……(「ついてくるもの」)。正視に堪えない恐怖の、最新ホラー短篇集。表題作ほか6編を収録!

作者自身や知り合いの編集者などから伝聞したという形で「実際にあった怖い話」風に語られるホラー短編集です。


「夢の家」
異業種パーティでたまたま二人きりで話したことをきっかけに付き合いを始めた女だが、どうにもおかしな言動をすることからはっきりと別れを告げた。
しかし、毎晩夢の中に出てきて、グロテスクな家に誘おうとしてくる。
途中ではっと我に戻って逃げるも、一日ごとに自分は徐々に家の中に近づいていることに気づいて・・・。
話が通じない上に無駄に行動力がある異性というのは極力関わり合いたくないもの。
これが夢の中に出現して一日ずつ追い詰められているのがわかったら、眠るのが怖くて仕方ないというのもうなずけます。
オチはやはりというべきか・・・。


「ついてくるもの」
少女が学校帰りにある廃屋で見かけたのは、なぜか裏庭に放置されていた雛人形の七段飾り。人形はそろって目や足など、どれも似たような個所が傷つけられている中で、たった一体無傷だったお雛様を助けようという思いで家まで持ち帰った。
その直後からペットを始めとして家族に不幸が次々と見舞われていく・・・。
お雛様が呪われていたのだと気づいた少女は元の廃屋の庭や川に流したりするのですが、いつの間にか戻ってきてしまう。
傷つけられていた人形と同じ個所を狙いすましたように怪我するといった、定番とも言える内容なのに怖さと救いのなさが徹底していますね。
少女の恐怖と絶望が痛いほどに伝わってきます。
タイトルは”付いてくる(尾いてくる)”と”憑いてくる”の両方の意味があるなぁと読み終えてから思いました。


ルームシェアの怪」
一戸建てを四人で家賃分割して暮らすルームシェア。問題は同居人との関係だが、きちんと個人のプライベートを尊重し、経費の負担も明記されたルールがあって安心して暮らしだした。
在宅している時間が多い主人公は二階の部屋から物音がしているので、部屋に行って呼んでみても無視されるという出来事が続いて・・・。
これぞまさしく怪。体験した者同士じゃないとわからない心理的な恐怖を感じますね。
実際に起こってもおかしくないリアルさがあります。


「祝儀絵」
歳の近い叔母が山形の実家から持ってきて、主人公に贈ったのは祝儀絵(披露宴の写真を絵にしたもの)。
新郎は主人公に似ているが、新婦は特徴のないうすっぺらな顔をしていた。
その日から主人公の交際相手や友人に婚約者だという女が出没するようになるが、決まって誰もがどんな容姿であったから思い出せないのであった。
怪奇ものの一つ、絵が動き出すというテーマを取り扱いつつ、もう一歩進めたところが独特な内容。叔母の行動がいろいろと不気味です。


「八幡藪知らず」
決して入ってはならないと祖母や伯母から脅されていた曰くつきの森。
転校早々に仲間として迎え入れてくれた友人たちが興味を抱いてしまい、なんとか行かずに済まそうとするも、結局は男の子特有の好奇心と探求心には逆らうことができずに皆で入ってしまう。
臆病を嫌い、無駄に勇気を奮うことが尊重される、いかにも小学生男子同士にありがちな空気がどんどんヤバイ方向に向かっていく感じが堪りません。
森からは人智を超えた、高度な霊や妖怪の存在が垣間見えて気になりますねぇ。
この短編集の中では長い分、一番読み応えありました。


「裏の家の子供」
同棲を始めた家の裏手には騒がしくて変わった女の子と父親がいることに気づいた。
やけに同棲に積極的だった彼は家具の買い物など金銭的なトラブルが生じてすぐに出ていってしまい、結局女性一人で住みだしたのだが、裏の父娘の奇矯な振る舞いやおかしな物音が激しくなっていき・・・。
最終的に裏の家に乗り込んでいくのがもう死亡フラグ的でドキドキしましたねぇ。
途中までは主人公が得た大金に目がくらんだ彼氏が豹変したことが災難であったと思いましたが、最後にヒヤリときました。


※ノベルズ版に収録されていた「椅人の如き座るもの」は文庫版では削除されてしまったようです。