13期・20冊目 『下町ロケット2 ガウディ計画』

下町ロケット2 ガウディ計画

下町ロケット2 ガウディ計画

内容紹介
ロケットエンジンのバルブシステムの開発により、倒産の危機を切り抜けてから数年――。
大田区の町工場・佃製作所は、またしてもピンチに陥っていた。
量産を約束したはずの取引は試作品段階で打ち切られ、ロケットエンジンの開発では、
NASA出身の社長が率いるライバル企業とのコンペの話が持ち上がる。
そんな時、社長・佃航平の元にかつての部下から、ある医療機器の開発依頼が持ち込まれた。
「ガウディ」と呼ばれるその医療機器が完成すれば、多くの心臓病患者を救うことができるという。
しかし、実用化まで長い時間と多大なコストを要する医療機器の開発は、中小企業である佃製作所に
とってあまりにもリスクが大きい。苦悩の末に佃が出した決断は・・・・・・。
医療界に蔓延る様々な問題点や、地位や名誉に群がる者たちの妨害が立ち塞がるなか、佃製作所の新たな挑戦が始まった。

ロケットエンジンのバルブシステムを医療用の人工心臓への転用。
前巻『下町ロケット』の最後で示唆されていましたが、元社員であった真野の伝手もあって、大手企業の日本クラインから試作部品の受注を受けることになります。
所詮、中小企業の下請けとして見下す態度を隠そうともしない担当者の態度に思うところがなくもない佃ですが、仕事と割り切ることにします。
開発部の山崎が設計に問題ありそうだと気づきつつも、まずは試作品を納入したのですが、量産に関しては最近急成長してきたNASA出身の椎名社長率いるサヤマ製作所にかっさられてしまいます。
しかも、前巻で会社の倒産の危機を救った帝国重工のバルブシステムについてもサヤマ製作所とのコンペになってしまい、またしても佃製作所は会社として大きな岐路に立つのでした。
一方、福井医科大学へと転職した真野は『神の手』とも称される名外科医の一村がリーダーとなって開発を進める新しい人工弁・ガウディのことを知り、佃にプロジェクト参加を持ち掛けるのでした。


ひとたびなにかあれば吹き飛ぶ中小企業の脆さと理想実現の狭間で苦しみながら、ひたすら愚直に技術者集団として邁進する佃製作所の面々に立ちはだかるは、やはり大企業の組織倫理であり、医大にて権力の中枢に居座るボスであったりします。
新たなライバルとなったサヤマ製作所の椎名社長はNASA出身という煌びやかな経歴だけでなく、人脈を駆使して大企業にすり寄ったり、社員引き抜きと同時に機密情報を入手するなど、手段を選ばないしたたかな悪役といったところ。
椎名社長のみならず、一村教授の元指導者であった貴船教授の圧力によって、ガウディ・プロジェクトは頓挫しそうになり、かなりハラハラさせられますね。
子供を始めとして、多くの心臓病患者を救うというはっきり目に見える目標を実現するために奔走する佃や部下たちにはつい応援したい気持ちが湧いてきてしまいます。




【以下ネタバレ】




人工心臓臨床試験中に患者が死亡したことがきっかけとなって、サヤマ製作所が違法行為に手を染めていたことが内部告発によって明るみになり、一大スキャンダルとして注目を浴びてしまうという因果応報な結果に。
その一方で真摯にモノ作りに取り組んできた佃らがその技術の結晶である人工弁によって患者を救う。
期待通りのハッピーエンドでありますが、最初から最後まで読者を惹きつけて離さないほど上質なストーリーを練り上げているのが素晴らしいとしか言いようがありません。
医師でありながら、権力に妄執した貴船教授という『白い巨塔』さながらのわかりやすい巨悪が最後になって医師の本分に立ち返るところが良いですね。
もっとも、医学の理想と己の欲望を混同していた彼があれだけの挫折を経ないと改心しなかったところに権力の恐ろしさがあるのかもしれません。