13期・18、19冊目 『里見八犬伝(上・下)』

滝沢馬琴の『南総里見八犬伝』をベースとして主要な登場人物はほぼ同一でありながら、ストーリーとしては独自路線で描かれた作品。
1983年の薬師丸ひろ子主演映画の原作であり、私自身も映画を見たことをきっかけに地元図書館で借りて読んでみたのが十代の時。いざ読み始めてみると、内容がかなり違っているので驚いた覚えがあります。
wikipedia:里見八犬伝 (1983年の映画)
最近、不意に思い出して読みたくなり、amazonで中古本を探してみました。
上巻は安価でしたが、下巻は本来の定価の3〜4倍程度の価格でしかなく、迷った末に買ってしまいましたよ。
本屋で実物を前にしたら買わなかったかもしれないのに、ネットでの買い物ではハードルが下がりますね。


物語としては、蟇田素藤に妖婦・舟虫、蛇の化身のような妖之介など、彼らが信仰する御霊様の奇妙な縁で集まった人外の者たちが安房上総で人を惑わし盗賊どもを傘下に入れるなどして勢力を増していき、断崖絶壁を背にした上総舘山城*1を攻めて手に入れるや、そこを本拠とします。
彼らは因縁のある里見氏を攻めて一族を滅ぼすのですが、唯一静姫のみが逃げ延びることができたのでした。逃避行中に侍女が身代わりとなり、ボロをまとって農民に扮した静姫がただの野生児であった親兵衛と出会うのは映画の冒頭部と同じですね。
映画で端折られた部分として、八剣士たちはそれぞれ不幸な生い立ちと出会いが詳しく描かれています。
例えば、我儘な主君の嫡子のために息子を自らの手で殺さざるを得なかった犬山道節。
父親が蜘蛛の妖怪に乗っ取られて妻も殺されてしまった犬村大角。
幼いころに見世物小屋に売られて、時に売春さえも強要されていた犬坂毛野はある日、妖之介という気色悪い男に散々嬲られたことで今までにないほどに絶望を覚え、翌朝死のうとしたところで道節に出会います。
ちなみに毛野と妖之介はどちらも男女双方の特徴を持つ身体をしていることがオリジナル設定であり、因縁の対決は最後まで持ち込まれます。
義理の兄妹でありながら惹かれあっていた犬塚信乃と浜路の悲恋も別れの前夜までは原作に準拠しつつ、その後は大幅に変更が加えられています。
その愁いを帯びた美貌ゆえに次々と下衆な男たちに狙われる浜路の不幸っぷりが妙に印象に残って気になる存在でした。
八犬士たちは生まれた時から大事に持っていたという、字の書かれた水晶玉を見せ合うことで同志であることを確認するのですが、全員が最初から持っていたわけではなくて、親兵衛のように最後の方まできてようやく見つかることもあります。
親兵衛といえば、八犬士の中でも主人公格であるのに光と悪のどちらにも転ぶ要素を持っているキャラクターとして描かれたのが面白かったです。
映画版でもそうでしたが、舟虫に気に入られて一度悪堕ちしましたからね。
小説版の方が静姫と山野で過ごし、何度も危険をかいくぐっていく描写に多く割かれていて、反発しあいながらも惹かれあい、その後のロマンスへと繋がるのが自然でしたね。


作品の大きな特徴としては、次々と登場する化け物・妖怪によるグロシーン、それに官能小説ばりの性描写が連続するところでしょう。
初めて読んだ時はいろいろ衝撃を受けたもの。
今はさすがに免疫ができていたせいか、あまり気にせずに読めましたけどね(笑)
生きている悪霊の城なんて結構好きなシチュエーションでした。その迫力と不気味さの割には最後があっけないけど(笑)
あと、名前は出てこないけど、毒娘がなかなか味のあるキャラクターで好きでした。

*1:安房にあった実在の城とは別の架空の城