13期・7冊目 『麒麟の翼』

麒麟の翼 (講談社文庫)

麒麟の翼 (講談社文庫)

内容紹介
ここから夢に羽ばたいていく、はずだった。
誰も信じなくても、自分だけは信じよう。
加賀シリーズ最高傑作
寒い夜、日本橋の欄干にもたれかかる男に声をかけた巡査が見たのは、胸に刺さったナイフだった。大都会の真ん中で発生した事件の真相に、加賀恭一郎が挑む。

ある夜、東京の中心である日本橋麒麟が象られた欄干にもたれかかったまま身動きを止めた男がいた。
目撃していた交番の巡査は始め酔っ払いかと思って声をかけたところ、胸にナイフが刺さっており、搬送先の病院で死亡が確認された。
そして同日、すぐ近くの公園で若い男が巡回中の警官に声を掛けられて逃走。道路に飛び出したところで車にはねられて意識不明の重体を負う。
日本橋で死亡していた男性(青柳武明)の財布などの持ち物を持っていたことから、若い男(八島冬樹)がナイフで刺して持ち物を奪ったと推測された。
八島は意識を取り戻すことなく死亡したため、尋問もできず有力な証拠もないまま被疑者死亡で捜査は終息に向かうかと思われたところ、所轄の加賀刑事は青柳武明が死の直前に謎の行動をしていたことに疑念を抱き、独自に調べ始める。
一方で容疑者の八島冬樹と青柳武明には派遣社員と派遣先の部長という繋がりが判明。しかも八島が就業中に怪我を負った件について、青柳が労災隠しを指示したとされて、マスコミによるバッシングが始まってしまう。


加賀恭一郎シリーズです。
タイトルに見覚えがある気がしたのですが、2012年に映画化されていました。本編は見てないですけど、きっとテレビCMを目にしていたのでしょう。
冒頭で橋の欄干にもたれかかるという印象的な場面から始まったのは一見ありふれた物取り目的に見えた犯行。容疑者が意識不明の重体に陥っていることを除けば難航することは無さそうな事件でした。
それが次から次へとささやかながら気になる事実が出てきて、加賀刑事が独自に動き出す・・・と序盤からぐいぐいと惹き寄せられる展開でした。
少しずつ事件の細部から見えてくる何らかの綻びを加賀刑事による優れた洞察と地道な聞き込みによって解決へと導くさまは読んでいて続きが気になってしまうほどで飽きさせません。
無責任なマスコミの報道によって振り回される遺族やその周囲の描写あたりはいかにもミステリードラマっぽくはありましたが。
最後になって父の願いが息子へと通じ、贖罪の行動に出るところで終わったのは文句のつけどころが無いほどに良いラストでした。
ただ一つ気になったのは労災隠しについては、やはり青柳武明に責任の大部分があったということか、それとも死者に口無しでなすりつけられたのかがはっきりしなかったのは気にかかりました。個人的に会社の方針に従っただけなんじゃないかなって気がしますね。