12期・51冊目 『『男女比 1:30 』 世界の黒一点アイドル』

内容紹介
第5回ネット小説大賞受賞作!
男女比1:30。
アイドル事務所の研修生として日夜デビューを目指す三池拓馬は、気付けばそんな世界に来てしまった。
右を見ても左を見ても女性ばかり。男にとって夢のようなハーレム世界と思いきや……
ここは男性が一人で歩けば即襲撃されるという、異性に飢えた女性による犯罪が多発する危険極まりないところだった。
世の女性の欲求不満を解消するため、拓馬は世界初の男性アイドルとしてデビューを果たす。
アイドルとなった彼の行動一つ一つに理性を失ったり、興奮のあまり気絶する肉食女性たち。
その過剰反応に「ヒエッ! 」と貞操の危機を感じながらも、拓馬はトップアイドルになるべく全力で活動するのであった……

著しく男女比が女性に偏った、あるいは貞操観念が逆転した世界。
それは『小説家になろう』では”あべこべ世界”と呼ばれ、異世界と同様に現実世界では平凡な、もしくは非モテだった男性がお手軽に女性にモテて、ハーレムを築くことのできる世界設定であります。
ただ、世界観構築はそれぞれであっても、展開が読めてしまうのもあってややマイナーなジャンルとも言えます。
そんな”あべこべ世界”が好きな作者が自身で書いてみたら、(個人的に)ジャンルの中で一番の出来になった作品と言えましょうか。
Web版⇒ https://ncode.syosetu.com/n2858df/


ある日突然、主人公が”あべこべ世界”に行ってしまった(あるいは変わってしまった)。
そこは男性であること自体が貴重で、何もしなくてもモテる。他の男性と違って元の女性観を持つ主人公はさらに尊ばれてチヤホヤされまくる。
たいがいはそんな筋書きが主流となるのですが、本作はさらに一歩踏み込んで、日本に似ているがまったく別世界のそこは男女比1:30。
女性はたちは数少ない男を巡り、チャンスとみるや肉食系どころか猛獣と化してしまい、男を襲う犯罪が絶えることがない。
冒頭で路地裏に迷い込んだ、アイドルの卵である拓馬は冴えないおっさんを性的に襲う少女たちを目撃、それが悪ふざけでもなく本当の犯罪だと認識して助けようとしたら、飛んで火に入るナントカとばかりに自分も襲われそうになるわけです。
逃走劇の果てに男性護衛官(通称ダンゴ)志望の二人の女性(凜子と静流)に助けられ、陽之介と名乗ったおっさんの伝手(というか妻)でその地の領主である南無瀬妙子の屋敷に匿われるという流れ。
そこまでで、この世界の女性の恐ろしさを充分思い知った拓馬ですが、ただ保護されるだけでなく、この世界の男性・女性のためにも唯一黒一点のアイドルを目指すことを決意します。
まずは打ち切り寸前だった子供向け番組「みんなのナッセー」に出演することに。
汚れなき純粋な幼女たちと歌とダンスを通じて心温まるふれあいを演じることで、徐々にこの世界のアイドルとして知名度を上げていこうと目論んでいた拓馬ですが、彼を目の前にして興奮し暴走してしまう幼女たちに茫然というか困惑というか悲鳴をあげるのでした。


労せずモテモテでハーレムはたいていの男の夢でしょうが、これが逆に大勢の女性に狙われ襲われ喰われる立場になったら?
そういう意味で”あべこべ世界”の男性は超草食系で臆病で、極端に女性を恐れるようになってしまう。
拓馬も徐々に世界観を知る内に戦慄を覚え、「ヒェッ」と悲鳴が漏れてしまう(笑)
そのギャップを拓馬の体験を通じて、軽快なコメディタッチで描いているのが特徴的ではないでしょうか。
凜子と静流のダンゴ二人による隠しきれない性欲とかセクハラとか、身に染みる陽之介の体験談とか。
書こうとすればいくらでもシリアス(現実の男女ではそういう部分あるし)になる内容をこうやって楽しませてくれるのは筆者の力量でしょう。
読んでいて、何度もクスッと笑みがこぼれました。
そういう意味では拓馬を取り巻く周囲の人物たちも個性が強烈でキャラクターが立っているなぁと感じます。
やはり、黙っていれば可愛いはずの凜子と静流の残念ぶり、いくら叩かれてもめげない根性とか…。
後半は拓馬とコンビを組んでひと騒動を起こす南無瀬真矢が光ってますね。
登場時は狐目でエセ関西弁という、とても怪しげな女性だったのですが、有能で正義感溢れる反面、拓馬にデレられると意外と初心(うぶ)だったり。イラスト的には普通に美人です。
あとは女性なのにオカマみたいな心野乙姫(「みんなのナッセー」のプロデューサー)。イラストはありませんでしたが、見たいような見たくないような…。
いよいよ終盤で組織的なバックアップも整って拓馬のアイドル活動が本格的に始まり、その影響が島中に波及していきます。それゆえ、今度どんな展開が待っているかも気になります。最後の姉妹もね。


1巻として、話の構成もちょうどいいですね。
実はWeb版では初期の頃から読んでいて、書籍化されると知った時はすぐに買おうとは思わなかったのですが、書籍化に伴って大幅に再構成されることを知ったのと、現在も安定したペースと内容で更新される本作の応援の意味もあって注文してみました。
ええ、実際に買って読んでみて良かったと思いますよ。