12期・46冊目 『パプリカ』

パプリカ (新潮文庫)

パプリカ (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

精神医学研究所に勤める千葉敦子はノーベル賞級の研究者/サイコセラピスト。だが、彼女にはもうひとつの秘密の顔があった。他人の夢とシンクロして無意識界に侵入する夢探偵パプリカ。人格の破壊も可能なほど強力な最新型精神治療テクノロジー「DCミニ」をめぐる争奪戦が刻一刻とテンションを増し、現実と夢が極限まで交錯したその瞬間、物語世界は驚愕の未体験ゾーンに突入する。

天才・時田浩作が開発した画期的なPT機器を使用して、従来では難しかった精神疾患治療を成功させたサイコセラピストの千葉敦子。
精神医学研究所においても傑出した二人はノーベル賞候補と目されていましたが、同時に理事長のお気に入りである二人の活躍を快く思わない一派がいました。
その領袖たる副理事長・乾のもと、ついに強硬手段を用いて助手たちが精神的に不調をきたしていきます。
乾とその愛弟子の小山内*1は敦子たちにその責任を取らせてその地位を追い落とし、さらに研究所を手中に収めようとしていたのでした。
一方で千葉敦子にはかつてパプリカという名で患者の夢の中に入り込んで治療を行う、夢探偵としての隠れた顔があり、その秘密を知る一人、理事長の嶋によって友人の会社専務・能勢の治療を頼まれるのでした。
再びパプリカとしての活動を始めた敦子ですが、所内では副理事長一派の工作が進み、浩作が開発した最新型精神治療器具「DCミニ」が奪取されてしまいます。
やがて夢の中で敦子たちと副理事長一派との戦いが始まり、しまいには「DCミニ」使用者が見た夢の化け物などが現実にまで侵入してくるという恐ろしい展開が待っていたのでした。


十数年ぶりの再読です。
研究所内の権力闘争に始まり、途中までは孤軍奮闘のヒロイン。
あやふやで抽象的で唐突に場面が切り替わる夢治療の場面。
夢と現実が交錯して、この世ならざる異形どもが街中に出現し、破壊と暴力がエスカレート。
多くの男性から慕われるヒロインのエロティックな展開など、個人的に筒井康隆らしい要素がふんだんに盛り込まれていた作品でしたね。
精神世界を描く作品は専門用語や抽象的表現が多くなって、わかりにくさを感じる部分があるのですが、個人的に初読時よりかは楽しめた気がします。
21世紀の技術発達の速度を考えてみれば、Windowsの普及以前の20年近く前にこういった作品を書いていたことがSF作家の面目躍如と言えましょうか。
「DCミニ」の発明は既存の治療技術では難しい精神疾患治療の可能性を示す一方で、重度の精神分裂病患者の夢を見させることで人格破壊をもたらすなど、非常に怖さを感じました。


一方で、amazonのレビューを見ると、アニメから入った読者層からは受け入れがたい部分もあるのは確か。
敦子が幾人もの男性たち(敵さえも含む)と情を交わしていくあたりは一般的なヒロイン像とは程遠く、ビッチと言われても仕方ないかもしれないですね(笑)

*1:絶世の美男で乾と肉体関係を持ちつつ、敦子のことも愛しているという複雑な人物