12期・31冊目 『天の前庭』

天の前庭 (ミステリ・フロンティア)

天の前庭 (ミステリ・フロンティア)

内容(「BOOK」データベースより)

高校の工事現場で発見された白骨死体と日付の刻印されたボールペン。自動車事故で意識不明となり、そのまま九年間眠り続けた柚乃は奇跡的に目覚めたとき、すべての記憶を失っていた。父は同じ事故で死亡、母は柚乃が子供の頃、ドッペルゲンガーを見たと言った翌日に失踪していた。そして今、長い眠りから醒めた柚乃は、パソコンに残されたかつての自分の日記の中に、自分にそっくりな少女に出会ったという記述を見つける。ドッペルゲンガー、タイムスリップ、友達と注文した日付入りボールペン…彼女の行き着く真実とは?詩的な文体で紡がれた『ヘビイチゴサナトリウム』で読者を魅了した著者の長編ミステリ第二弾。

発見された白骨死体は誰なのか?
同じ場所にあった、日付の刻印されたボールペンの持ち主は?
また、自動車事故で重傷を失って意識不明となり、そのまま九年間も眠り続けていた柚乃に何があったのか?
そして、柚乃の母親が失踪した謎や父親が親しくしていた女性の正体は?
そもそもまるでオウム真理教を思わせる宗教団体の世紀末的テロによって東京が崩壊したシーンが数度挿入されたり、巨大掲示板の書き込みで進行していたもう一つの世界観など、パラレルワールドを思わせる描写もあって、読み進めるほどに謎が謎を呼ぶ展開が興味をそそります。
さらに長い眠りから醒めた柚乃は記憶を失っていたものの、パソコンに残されたかつての自分の日記の中に、自分にそっくりな少女ユナに出会い、親しくなったことが綴られているのですが、いつも一緒にいたはずの友人(尚、徹、秀人)たちは彼女の存在を知らないという。
途中でどうやらタイムトラベルがあり、それが歴史を変えたようなことや、柚乃の母親が出会ったドッペルゲンガーらしいことも示唆させます。
SFやオカルティックな要素を見せつつ、ミステリとして非常に緻密に構成されていることをうかがわせますが、終盤の展開は謎解きの爽快感というよりも、錯綜しすぎてついていけない印象がありましたね。
それはテロを起こす側の事情や目的、それにタイトルが意味するものが曖昧だったせいもあるかもしれません。