12期・26冊目 『旭日、遥かなり5』

旭日、遥かなり5 (C★NOVELS)

旭日、遥かなり5 (C★NOVELS)

内容紹介

連合艦隊はギルバート沖海戦に辛勝するも、空母「赤城」をはじめ主力艦を失う痛手を負った。米太平洋艦隊に奪われたタラワ環礁に向け、日本軍は夜襲を決行。敵地に残された守備隊の救出に成功したが、ギルバート諸島は米国の手に落ちてしまった。一方、欧州前戦では、ドイツ軍の猛攻でソ連の要衝・スターリングラードが陥落し、連邦内の各国が分離・独立を開始する。ソ連の崩壊が間近に迫る中、連合艦隊ギルバート諸島奪回作戦を始動。メジュロ沖にて、「大和」「武蔵」と米新鋭戦艦「サウス・ダコタ」「インディアナ」が激突する!

史実のラバウルガダルカナルを思わせる長距離航空戦がマーシャル諸島・クェゼリン環礁(日本)とギルバート諸島のタラワ環礁(アメリカ)の間で続きます。
零戦を護衛につけた一式陸攻が爆撃を繰り返すも、ブルドーザーなどの機械を活かした設営能力の高さで基地の復旧は早く、いたちごっこの模様。
米軍もB26やA10など速度性能の高い爆撃機でやり返します。
日本軍は今まで出番のなかった特殊潜航艇である甲標的を投入して泊地内での雷撃を行えば、米軍も水路に機雷を撒いたり通商破壊に力を入れるなど、あの手この手で応酬が繰り広げられる状態。主戦力の回復を待っている太平洋戦線では膠着状態となっていました。
そんな中で米軍基地には空の要塞の異名をとるB17が到着していることが偵察により明らかになります。
護衛がなくても迎撃が難しいB17が今後大量に投入されたら均衡を保っていた戦線は崩れ、航空戦力の回復前に戦線が後退してしまうということで、どうにかすべく前線から山本五十六長官の元へと意見が具申されたのでした。


一方で欧州の東部戦線ではドイツ軍による徹底した通商破壊が功を奏して英米による援助は減少してソ連軍は後退。
ついにスターリングラードが陥落。中央アジアの共和国はソ連脱退とロシア帝国への加入を打診するようになり、ドイツは二式大艇を参考にB29を思わせる四発重爆を完成させて更なる攻勢を構想するようになっていたのでした。


今回は太平洋戦線の膠着とそれを打開するために水上戦力の投入。そこに満を持して戦艦「大和」、就役して四か月という練度に不安の残る「武蔵」が実戦参加。対するアメリカは防御力に定評のある新鋭戦艦サウスダコダ級2隻が待ち構えており、いやが上にも期待と不安が募ります。
欧州戦線ではソ連崩壊待ったなし!といった状況。
ロシア帝国への寝返りが街や部隊単位から国単位となって、もはや留まるところを知らない。
ヒトラー総統は開発されたばかりの重爆をイギリス屈服のために使うことを示唆していますが、もしかするとロシア帝国との関係悪化から開戦も無きにしも非ずでしょうか。
今でこそ優勢を保っている日本がそろそろアメリカの物量によって押し込まれる前の均衡状態ですが、ドイツが史実よりかなり順調なので、その矛先が再びイギリスに向かうのと、アメリカの新戦力による反攻が微妙に重なりあいそうな感じがします。


肝心の艦隊戦では、流れも描写も結果も今まで通りといったところでしょうか。*1
戦艦同士の砲撃戦に多くを割いたためか、いつもならば出番があるはずの巡洋艦駆逐艦は互いに牽制に終始したとかでほとんど描写無し。
代わりに戦闘機を繰り出しての観測機狩りが目についたところでしょうか。
あの人物*2が司令を務める2隻の旧式戦艦(金剛、榛名)がサウスダコダを相手に活躍したのが意外でした。

*1:リー提督は重用されているようで、やっぱり負けて遁走するか、乗艦と運命を共にすることが多い気がしてしてならない。

*2:著者の初期作品では評価が低かった栗田建男だが、近年ではさほど悪い扱いではない