12期・12冊目 『銀河に口笛』

銀河に口笛 (角川文庫)

銀河に口笛 (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

僕らは親愛なる秘密結社「ウルトラマリン隊」を結成して、みんなが持ち込んでくる不思議な事件の謎に挑んでいた。そんな小学三年生の二学期の始業式の日、不思議な力を持った少年リンダが転校してきた…。虹の七色に乗せて送る、ちょっぴりほろ苦い少年たちの成長物語。

昭和40年代、モッチたち小学3年生の仲良しグループは当時流行った「ウルトラマン」や「少年マリン」から「ウルトラマリン隊」を結成しました。いつも本を持ち歩いている書店の息子・ニシ、体格が良くて食いしん坊のエムイチ、整った容姿と裏腹に短気なムー坊。
そんな彼らが市営プールからの帰りに歩道橋の上で流星が落ちたのを目撃し、その行方を捜している内にある公園で日本人離れした眉目秀麗な少年に出会いました。
彼こそは後に同じクラスに転校してきたリンダこと林田。
後に彼を「ウルトラマリン隊」の5人目のメンバーに迎えて、主人公モッチとしては大人になっても忘れられない貴重な一年余を過ごしたのでした。


モッチと呼ばれていた主人公がが大人になり、結婚して妻子ある40代半ばとなって、当時を振り返りながら綴られる回想録という形をとっています。
一篇ごとに虹を構成する色にちなんだ章名が付けられているのが洒落ていますね。
リンダが加入するきっかけとなった人助けで表彰されたのに気を良くして「ウルトラマリン隊」は江戸川乱歩の作品に登場する少年探偵団を真似て、依頼された事件の解決を目的とするようになります。
始めこそ、行方不明となった猫探し、自転車探しなどでしたが、その内に不可思議な事件に取り組むことになっていきます。
その解決に大いに力となったのがリンダの存在なのですが、その秘密を覚えていたのはなぜかモッチだけ。
モッチはリンダのことを、もしかしたら宇宙人ではないかと密かに疑っていたのでした。


もう少し時代は下がるけど、同じように昭和の時代に小学生を送った私としても、いろいろと共感できる内容が多いです。
ノスタルジックホラーというジャンルを確立した著者ですが、重要人物の少年リンダが宇宙人であることが示唆されているのは、やはりあの頃の子供たちはUFOや宇宙人を始めとする宇宙の神秘というものにすごく憧れを抱いていたせいでしょうね。宇宙を題材としたSF作品も多かったですし。
その反面、大人だから何もかも優れているわけではなく、良い人もろくでもない人もいる。それでいて子供にはどうしようもないことがある。
性同一障害の少年(後にミハルとしてウルトラマリン隊に加入)や痴呆症となった老婆、両親を亡くし望まない養子とされてしまうクラスメイトの話など、子供にしては重いテーマも扱っているため、楽しいことよりも苦い事実を涙と痛みと共に彼らは知っていくという成長物語としての側面もあって非常に切なくなります。
リンダとのお別れ会で彼がみんなに配ったペンダント「スーパーどんぐり」。
どんな秘密が隠されていたのかは結局明かされなかったのですが、ムー坊が事故で死んだ後に「身に着けていれば助かった」といった意味の述懐があったから特別な意味があったのは確かでしょう。
最後に彼らの成人後の様子が書かれていることから察するに、本人の夢を叶えるための助けになったのではないかと思いましたね。